ザ・デッド・ウェザーは、ドラムがジャック・ホワイト、ヴォーカルがザ・キルズのシンガーであるアリソン・モシャート、ギターとキーボードがクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのディーン・フェルティタ、ベースがホワイトの長年の友人であるジャック・ローレンスという布陣。4人が集まって出す音は、これまでにホワイトが関わってきたプロジェクトのなかでも、最高にダーティだ。

 デッド・ウェザー自体は、低予算の2作品、2009年発売の『狂おしき薫り』と、その後間もなくリリースされた2010年の『シー・オブ・カワーズ』で活動を開始。しかし続く5年間、ホワイトはソロアーティストとして活動していた。それがどんなに難しい道のりであろうとも、自分にとっての“異形なる詩神”を追い求めてきたホワイト。だが今回の『ドッジ・アンド・バーン』(ナッシュビルにあるホワイトのサード・マン・スタジオで録音)は、より商業主義的だ。言うなれば、“21世紀版グラインドハウス・ブルース・メタル”。血のついた牙や、鉄道の朝食メニューにある安酒のイメージだ。

 本作では、ホワイト自身も数曲、ヴォーカルを担当。しかし基本的にはサイドマンに徹している。レッド・ツェッペリンを彷彿させる「I Feel Love (Every Million Miles)」では、フェルティタのワイルドなギターに合わせてジョン・ボーナムふうのドラム演奏を披露。また「Mile Markers」は、ホワイトがドラムの後ろで踊っている姿が浮かんでくるような曲で、ディープ・パープルの風味が少し加味されている。だがこのニューアルバムでの真のスターは、常にモシャートだ。バンドのデビュー作とセカンドでの彼女は素晴らしかった。本作ではさらにその幅を広げ、力強さを増し、パティ・スミスの域にまで到達しようとしている。「Buzzkill(er)」では、フェルティタのギターがバンシー(アイルランドの泣き叫ぶ妖精)のような音を響かせるなか、モシャートが自らの罪悪感について歌う。“あたしには慈悲は与えられないだろう/このテネシーでは”と。「Cop and Go」はさらに情け容赦ない。この曲でモシャートは、運の良い被害者に“モタモタしてる場合じゃない”と告げる。この曲で描かれる男にとっては、その晩が最高の夜になるか、最後の夜になるか、どちらかだ。おそらくその両方となるだろう。

 このアルバムが傑出しているのは、イカしたバンドメンバーとイカれたシンガーが、ホワイトのブルージーな側面やゴシック趣味をうまく表現しているところだ。「Open Up」はそのサウンドがあまりに凶暴なために、モシャートの“あんたの髪についてるバブルガムはフェアじゃないけど(Bubble gum in your hair isn't fair)/匂いだけはいい”といったナンセンスな叫びに気づく余地さえ与えない。しかしただ1曲、最後に収録されたブロードウェイふうバラード「Impossible Winner」は、こういった方向性からそれている。とても魅力的なアルバムのなかにあって唯一、素晴らしく退屈な瞬間だ。

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