カート・コバーンの知られざる素顔:映画『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』監督インタヴュー

—聞いていると、このアルバムは人々を狂わす力を持っていますね。このアルバムは飼いならすことのできない想像力を示唆しています。カートのシナプシスがあらゆるところで燃え上がっていますね。

僕たちは31の手がかりを持っている。これまで完成した形のニルヴァーナのアルバムには出てきたのはその一握りだ。だからこれが単なる音の作品でしかないということを覚えておかなくてはならない。カートはこの他にも文章や映像を残しているんだ。映画の中でクリスが言ったことに戻ると、カートは創造しなくてはならなかった。作品は彼から溢れ出てきていたんだ。それはアルバム前半の喜びだと僕は思う。彼は自分を脅かすような暗い存在を探求していない。わかるのは、一人でアパートに座っている若い男の存在だ。誰かがカートに曲を書くように命令しているわけではない。カートは自分自身を楽しませているんだ。

完成した作品ではないものを発表することの倫理的な問題—僕にはこの批判がこのプロジェクトへの圧力となるだろうということはわかっている。しかしブート盤の作品がボブ・ディランの製作過程に対する理解を深めるように、『ザ・ホーム・レコーディングス』がカートの製作過程への私たちの理解を深め、それだけではなくカートの他の切り口、他の一面を示してくれることが僕にはわかる。その一面とは、彼が必ずしもスリーピースバンドという文脈の中では使うことができなかった芸術的な吐け口なんだ。それは取るに足らないゴミのようなものでもないし、重要性を持たない捨てられた作品でもない。我々の時代に生きた最も重要なアーティストの一人に対する、僕たちの理解を真に深めてくれるものなんだ。

—このサウンドトラックを聞いたとき、まずビートルズの最後のアルバム『レット・イット・ビー』のボイスオーバーと音の引用と比較してしまったことを認めなくてはなりません。あの作品はクリエイティブな存在の崩壊について描いたドキュメンタリー作品のサウンドトラックですね。

君が言おうとしていることはわかる。その一部は親密さのレベルに起因するものだろう。君は表層部分を剥がし、カーテンの後ろに隠れているものを見ている。それが正直さを生み出し、その正直さは親密さを生み出す。カートが独り言を言っている瞬間がある。「ああ、弦を切っちゃったみたいだ」。これを聞いたとき、インタビューの声とは違うことがわかる。これはカートの内なる空間—純粋さと充足だ。これがニルヴァーナ(至福の境地)なんだ。

Translation by Yoko Nagasaka

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