28位『ランナウェイズ』(2010年)

伝記映画を生かすも殺すも、演技次第だ。フローリア・シジスモンディ監督が、ガールズ・ロックバンドのパイオニアの創成期を描いたこの映画では、クリスティン・スチュワートのジョーン・ジェットとマイケル・シャノンのキム・フォーリーという、ふたつの素晴らしい演技を見ることができる。ザ・ランナウェイズは、搾取からの脱却を図り、力を手に入れようとしていた。フォーリーはバンドを束ね、嬉々として10代の少女たちの魅力を宣伝したが、ジェットとバンド仲間は、マネージャーの手から管理権を奪うためにその成功を利用した(映画が公開されたのは、バンドの後期のベース、ジャッキー・フォックスとして知られるジャクリーン・フックスが、フォーリーに薬を飲まされ乱暴されたと公表した後のことだった。なお、フックスはこの映画に登場していない)。ダコタ・ファニングはシェリー・カーリーの自信に満ちた態度を表現しきれていないが、スチュワートのジェットは純粋に格好よく、シャノンはフォーリーのカリスマ的で近寄りがたい人物像を作り上げている。(SA)

27位『エディット・ピアフ 愛の讃歌』(2007年)

不世出の歌手エディット・ピアフを映画で演じる女優の候補者リストを作ったのがあなただったら、マリオン・コティヤールは、マライア・キャリーとマーサ・プリンプトンの間あたりに入っていただろう。そのフランス人女優は、かわいいフランス的な顔以上の魅力を持っていることを既に証明していたが、彼女が『小さなすずめ』を完璧に演じられるという保証はなかった。コティヤールは驚くべき解釈で、どん底の生活から最大級の音楽ホールまで全身全霊で歌った、ピアフの脆さ、不安定さ、執拗なまでの自己防衛的な態度を表現し、感動をより深くする。コティヤールにアカデミー主演女優賞をもたらしたのは、オリヴィエ・ダアン監督が描いた典型的な一代記でも、彼女が演じきったピアフの魅力を半減させるニセの歯や縮れ毛でもない。――コティヤールは口パクで歌っているが、映画そのものが歌っているのだ。(DF)

26位『リストマニア』(1975年)

小さな事実と、大きな(本当に大きな)男根象徴を元に、ケン・ラッセルが19世紀のハンガリーの作曲家フランツ・リストへ敬意を表した1975年のミュージカルは、あまりにクレイジーで、ザ・フーの『トミー』 で見せた彼の狂気のテイクが、計算された重厚なもののように思えるほどだ。ロジャー・ダルトリーが、情熱的なピアノで女性ファンたちを熱狂させたと言われるリストを演じ、ラッセルは、「世界初のロックスター」として彼を捉え、10フィートに巨大化する彼の『ナニ』、リバプール訛りの法王(演じるのはリンゴ・スター)、そして、第二次世界大戦中にナチスを倒すために蘇った作曲家という妄想を作り上げる。ああ、それと、イエスのキーボードのリック・ウェイクマンが、北欧神話の神トール役で出演している。何か質問は?(DE)

25位『バック・ビート』(1994年)

ビートルズの模倣で映画を埋めるなら、彼らの音楽を同じように真似て再録音するほうがいい。しかし、『バック・ビート』のサウンドトラックは、サーストン・ムーア、デイヴ・グロール、マイク・ミルズ、そしてグレッグ・デュリなど、人気オルタナティブ・ロックバンドのメンバーが演奏したビートルズの曲を使用し、無秩序なエネルギーを増している(まだリトル・リチャードのカヴァーを演奏していた、バンドのハンブルク時代に焦点を合わせた映画に貢献している)。クリストファー・ミュンチ監督の『僕たちの時間』でジョン・レノンを演じたイアン・ハートが、もはや物真似を越えチャネリングの域に達した鬼気迫る演技で再び同じ役に挑戦したが、イアン・ソフトリー監督は、ビートルズの忘れられた初期メンバーたち、特に不運のベーシスト、スチュアート・サトクリフ(スティーヴン・ドーフ)に賢くスポットライトを当てている。ジョン・フォード監督の『若き日のリンカーン』のように、『バック・ビート』は、アイドルがアイドルになる前の物語で、やがて不滅の名声を得る気配をわずかににおわせるだけだ。(SA)

24位『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2014年)

長年映画の製作に携わってきたビル・ポーラッドが、ブライアン・ウィルソンのふたつの姿(ポール・ダノが演じる『ペット・サウンズ』製作時と、ジョン・キューザックが演じるうつ病と戦う80年代)を描く感動的で複雑な映画で監督業に進出した。『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は、過去と現在が会話しているようにふたつの時代を行き交い、時系列ではなく、事実と印象の集積として、ひとりの天才の人生を見せようとする。スイートで控えめなダノ、物憂げで不安げなキューザック、どちらのウィルソンもそれぞれ素晴らしい。しかし、最高の演技を見せているのは、80年代のウィルソンがセラピストのユージン・ランディ(ポール・ジアマッティ)の支配から抜け出すきっかけとなる元モデル、メリンダ・レッドベターを演じたエリザベス・バンクスだろう。20余年もの間苦しみ続けたビーチ・ボーイズのスターがついに幸せな結末を迎えることができたのは、バンクスのタフで心優しい役柄のおかげだ。(TG)

23位『ドアーズ』(1991年)

『ドアーズ』の公開当時、映画評論家のロジャー・イーバートは、「まるで、自分はシラフなのに、タチの悪い酔っ払いとバーに閉じ込められているような気分になる映画だ」と酷評した。恐らくだが、オリバー・ストーンがジム・モリソンに贈る賛歌は、動的で不合理で壮大すぎるので、ロックンロールが過剰になり大々的におかしくなっているのだ。ヴァル・キルマーは、(27歳で他界する)モリソンを神格化することなく、ホルモン剤、酒、ヘロインにふける60年代の享楽的なロサンゼルスの権化とすることで、リザード・キング(トカゲの王)としての彼の生涯を演じた。彼のモリソンは英雄と愚か者、大ぼら吹きと偉大な詩人というふたつの面を持ち合わせており、ストーンは、前作『JFK』『ナチュラル・ボーン・キラーズ』と同様、サイケデリックな音楽と映像を多用することでどちらか決めつけることを避けている。『ドアーズ』を見て、モリソンの高慢で自滅的な生きざまに憧れる向きもあるかもしれない。しかし、それは茨の道だ。(TG)

22位『クレイジーセクシークール:ザ・TLC・ストーリー』(日本未公開)(2013年

TLCは、この10年でもっとも成功した人気バンドのひとつになったが、3人のメンバーの人生が、VH1のドラマ『ビハインド・ザ・ミュージック』シリーズで損なわれた。リサ・『レフト・アイ』・ロペスの早すぎる死とバンドの実質的な解散から10年後の2013年にVH1が制作した『クレイジーセクシークール:ザ・TLC・ストーリー』は、実際のミュージシャンであるキキ・パーマー(レゾンダ・『チリ』・トーマス役)、ドリュー・シドラ(ティオン・『T-ボス』・ワトキンス役)、リル・ママ(レフト・アイ役)をキャスティングしている。芝居がかったところがないのが功を奏し、演技はリアルで、3人に驚くほどよく似ている。バンドの元マネージャー、ペリ・『ペブルズ』・リードは、この映画でもっともわかりやすい悪役で、2013年のローリングストーン誌の評によると、彼女は「世間知らずなバンドから何食わぬ顔で何百万ドルもだまし取った寄生虫」として描かれている。さらに、素晴らしいシーン、音楽業界のクズ、怪しい登場人物に事欠かず、タブロイド紙が泣いて喜ぶ要素が満載の映画になっている。(JN)

Translation by Naoko Nozawa

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