『Who’s the Man?』はYo! MTV Rapsの劇場版といって差し支えないだろう。同番組のプロデューサーだったテッド・デミ(2002年に逝去)が監督を務めたこのコメディ・ドラマでは、床屋からドジな警察官に転じる2人の主人公を、MTV Rapsの司会者エド・ラヴァーとドクタードレーが演じている。本作にはヒップホップ黄金期のスターがこぞってカメオ出演しており、モニー・ラヴ、アイス・T、サイプレス・ヒルのB・リアル、ハウス・オブ・ペインのメンバーたちがカードゲームに興じる場面や、クール・G・ラップがバーニー・マックに髪を切ってもらうシーンに、90年代ヒップホップのファンは思わずニヤけてしまうはずだ。『ウォーリーをさがせ!』のヒップホップ版のような本作には、VJのカレン・ダフィー、Yo! MTV RapsのT・マニーといったMTVのレギュラー陣や、デニス・リアリーやコリン・クインといった有名コメディアンたちも出演している。またノトーリアス・B.I.G.のデビュー曲、『パーティ・アンド・ブルシット』が収録されている本作のサウンドトラックも高い人気を博した。
『ビート・オブ・ダンク』(1994年)
『ジュース』ではビショップという映画史に残る悪役を演じたトゥパックだが、彼がストリートバスケのトーナメントに出場するチームを率いるリーダーに扮した本作も大きなインパクトを残した。しかし、レオン(『ゲット・レディ!栄光のテンプテーションズ物語』『クール・ランニング』に出演)とバーニー・マック、そして珍妙なキャラクターに扮したマーロン・ウェイアンズの好演にもかかわらず、トゥパックが目をつける高校バスケのスター選手、カイル・ワトソン役のデュアン・マーティンのお粗末な演技に足を引っ張られ、本作は商業的には失敗に終わった。その他の特筆すべき点は、当時人気の絶頂にあったデス・ロウ・レコードが本作のサウンドトラックを手がけていることだろう。ウォーレン・Gとネイト・ドッグによる『Regulate』、SWVとウータン・クランの『Anything』、ザ・レディ・オブ・レイジの『Afro Puffs』、そしてトゥパックとサグ・ライフによる『Pour Out a Litte Liquor』など、聴きどころ満載の内容となっている。
本作のプロデュース、脚本、監督に携わっただけでなく、俳優として出演まで果たしたノー・リミット・レコードのオーナー、パーシー・『マスター・P』・ミラーは、『ポケットいっぱいの涙』をデヴィッド・リーンの映画のように甘ったるく思わせてしまう本作で、自身のビジネスマンとしての才能を証明してみせた。ルイジアナの非情なドラッグディーラーの物語を描いた本作は、雀の涙に等しい予算で制作されたにもかかわらず、19.95ドルで発売されたビデオの売り上げは900万ドルに達したとパーシーは主張している。その後彼はミラマックス社と次回作(『I Got the Hoo Up』『Foolish』)の配給契約を交わし、フォーブス誌の「最も所得の多い起業家10人」に選出された。