『ワイルド・スタイル』から『8マイル』まで、傑作ヒップホップ映画20選

『Who’s the Man?』(1993年)

『Who’s the Man?』はYo! MTV Rapsの劇場版といって差し支えないだろう。同番組のプロデューサーだったテッド・デミ(2002年に逝去)が監督を務めたこのコメディ・ドラマでは、床屋からドジな警察官に転じる2人の主人公を、MTV Rapsの司会者エド・ラヴァーとドクタードレーが演じている。本作にはヒップホップ黄金期のスターがこぞってカメオ出演しており、モニー・ラヴ、アイス・T、サイプレス・ヒルのB・リアル、ハウス・オブ・ペインのメンバーたちがカードゲームに興じる場面や、クール・G・ラップがバーニー・マックに髪を切ってもらうシーンに、90年代ヒップホップのファンは思わずニヤけてしまうはずだ。『ウォーリーをさがせ!』のヒップホップ版のような本作には、VJのカレン・ダフィー、Yo! MTV RapsのT・マニーといったMTVのレギュラー陣や、デニス・リアリーやコリン・クインといった有名コメディアンたちも出演している。またノトーリアス・B.I.G.のデビュー曲、『パーティ・アンド・ブルシット』が収録されている本作のサウンドトラックも高い人気を博した。

『ビート・オブ・ダンク』(1994年)

『ジュース』ではビショップという映画史に残る悪役を演じたトゥパックだが、彼がストリートバスケのトーナメントに出場するチームを率いるリーダーに扮した本作も大きなインパクトを残した。しかし、レオン(『ゲット・レディ!栄光のテンプテーションズ物語』『クール・ランニング』に出演)とバーニー・マック、そして珍妙なキャラクターに扮したマーロン・ウェイアンズの好演にもかかわらず、トゥパックが目をつける高校バスケのスター選手、カイル・ワトソン役のデュアン・マーティンのお粗末な演技に足を引っ張られ、本作は商業的には失敗に終わった。その他の特筆すべき点は、当時人気の絶頂にあったデス・ロウ・レコードが本作のサウンドトラックを手がけていることだろう。ウォーレン・Gとネイト・ドッグによる『Regulate』、SWVとウータン・クランの『Anything』、ザ・レディ・オブ・レイジの『Afro Puffs』、そしてトゥパックとサグ・ライフによる『Pour Out a Litte Liquor』など、聴きどころ満載の内容となっている。

『friday』(1995年)

90年代コメディ映画の傑作のひとつである本作は、アイス・キューブの『サウス・セントラルの平和な日々』、クーリオの『ファンタスティック・ヴォヤージュ』等のミュージック・ビデオで知られる、F・ゲイリー・グレイが監督を務めた。荒くれ者に扮するアイス・キューブ、そしてマリファナ中毒で常に躁状態のスモーキーを演じたクリス・タッカーのタッグは、まさにサウス・セントラル版『アボットとコステロ』だ。また苛められ役のUPSドライバーに扮したトラックメイカーのDJプー(キューブと共同で本作の脚本を手がけている)、そしてジョン・ウィザースプーン、バーニー・マック、A・J・ジョンソンといったコメディアンたちのナンセンスな演技も本作に華を添えている。学生時代に上級生からいびられた経験のある人間なら、タイニー・リスターが演じたハフィーを乗り回す苛めっ子、ディーボの姿に苦笑いせずにはいられないだろう。思いがけないヒットを記録した本作は、夜な夜な寮でこっそりとマリファナを吸う学生たちのバイブルとなった。

『I’m ’Bout It』 (1997年)

本作のプロデュース、脚本、監督に携わっただけでなく、俳優として出演まで果たしたノー・リミット・レコードのオーナー、パーシー・『マスター・P』・ミラーは、『ポケットいっぱいの涙』をデヴィッド・リーンの映画のように甘ったるく思わせてしまう本作で、自身のビジネスマンとしての才能を証明してみせた。ルイジアナの非情なドラッグディーラーの物語を描いた本作は、雀の涙に等しい予算で制作されたにもかかわらず、19.95ドルで発売されたビデオの売り上げは900万ドルに達したとパーシーは主張している。その後彼はミラマックス社と次回作(『I Got the Hoo Up』『Foolish』)の配給契約を交わし、フォーブス誌の「最も所得の多い起業家10人」に選出された。

『BELLY 血の銃弾』 (1998年)

テリトリー拡大のためには争いを厭わない2人のドラッグディーラーの物語である本作は、ストーリーという面では決して優れているとは言えない。その内容はアトランタ、キングストン、ジャマイカを舞台に犯罪行為を繰り返すキャラクターたちが、市民運動の活動家ドクター・ベン・チャビスの暗殺を企てるというものだ。それでも、現実さながらに下っ端に怒鳴り散らすDMX、そして酩酊状態のマイケル・コルレオーネ(『ゴッドファーザー・PART Ⅱ』)のような表情を見せるナズの演技は一見の価値がある。ミュージック・ビデオ界の奇才ハイプ・ウィリアムスは、監督と脚本を手がけた本作でその独自の世界観を世に知らしめた。トレードマークの魚眼レンズを駆使した映像(ハイライトはソウル・Ⅱ・ソウルの『バック・トゥ・ライフ』がバックに流れるオープニングだろう)や、白昼夢を思わせる屋外でのシーンの数々には、特殊技術に頼らない彼のこだわりとセンスが存分に発揮されている。商業的には期待されたほどの成功を収めることはできなかったが、本作は90年代末のヒップホップのキーワードを網羅し、カネを稼ぐことを至上の命題とするサグライフの美学を見事に描きだした。

Translation by Masaaki Yoshida

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