9位『Another State of Mind』(1984年)

1982年、ユース・ブリゲードのシンガーのショーン・スターンはスクールバスを購入し、南カリフォルニアの盟友ソーシャル・ディストーションと初の世界ツアーに出る。ワシントンDCでの事故をきっかけに後者は解散し、パンク界のジョニー・アップルシードであり続けるという彼らの希望はもろくも崩れ去ってしまうが、道中で出会ったマイナー・スレット(!)のメンバーたちが彼らに寝床を提供する。本作にはツアーダイアリーという側面もあるが、あどけなさが残るマイク・ネスがタイトル曲のコード進行を模索する姿や、ハーゲンダッツのアイスクリームを売るアルバイト時代のイアン・マッケイ、スラムダンスの踊り方など、極めて貴重な映像が数多く収録されている。しかしなお、当時のシーンを支えたピュアなDIY精神が本作の根幹であることは疑いない。テストステロンがもたらす内部抗争、素手での食事、他人の好意なしでは成立し得ない過酷なツアー事情、そして人生を左右するほどのライブ体験、本作にはアメリカのパンクロックバンドの真実がリアルに描かれている。DF


8位『シド・アンド・ナンシー』(1986年)

セックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスの死の衝撃から10年後に公開された、ゲイリー・オールドマン主演の本作に複雑な思いを抱えた人は少なくないだろう。(ゲイリーの見事な演技は誰もが認めるところだが)パンク史上最も有名なカップルの関係を描いた本作は、評論家たちから高く評価されただけでなく、ドラッグに染まった2人の愛し合う姿が大きな反響を呼び、カルトムービーの名作として歴史に名を残すこととなった。クロエ・ウェッブは永遠のパンクグルーピー、ナンシー・スパンゲン役を見事に演じ(当初は新人だったコートニー・ラヴの起用が検討されていた)、シドになりきって『アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ』『マイ・ウェイ』等をカバーするゲイリー・オールドマンの演技は一見の価値がある。2人の怒鳴るような話し方の再現っぷりも見事だが、本作の最大の魅力はヘロイン中毒の2人による、狂おしいほどの愛が憎しみへと変化していく過程の描写だ。EGP


7位『Ladies and Gentleman the Fabulous Stains』(1982年)

髪を染めたりキャッチーな曲を作ることが時に大きな革命へと繋がっていくように、シンガーのコリーヌ・「サード・ディグリー」・バーンズが上げた反抗の狼煙は、次第に大きなムーヴメントへと発展していく。ルー・アドラーが監督を務めたこのパンクムービーには、セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュ、ザ・チューブスといったバンドのメンバーも俳優として出演していることも話題となった。しかし本作の評価を確固たるものにしたのは、ダイアン・レインが演じたザ・ステインズのフロントウーマン、コリーヌのスカンクを思わせるファッションと痛快なセリフの数々だ。カルトムービー界の伝説的存在サラ・ジェイコブソンからコートニー・ラヴまで、バーンズをヒーローと崇める女性は数知れない。1982年に残された「私たちの知らないところで、やつらは世界を自分のものにしようと企んでる」というバーンズの名言は、2016年の現在でも変わらないリアリティをもって響く。

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