ジョン・レノンの「キリストより有名」発言論争の真実

このキャンペーンの動機は信仰ではなく宣伝のためだったが、チャールズは自分がモラル審判であるかのように最大限振る舞い、長髪の罪深い外国人がアメリカの若者を堕落させようとしていると批判した。「世界中で、特に若者層から絶大な人気を誇るビートルズは、発言に分別があるか、成熟しているか、どういう意味かを考えることなく、何でも言いたい放題だった。そして誰も一切の反論をしてこなかった」とチャールズは叫んだ。

ここでUPI通信社のバーミンガム支局長、アル・ベンが登場しなければ、騒動はこの辺りで終わっていたかもしれない。彼は通勤途中に偶然WAQYを聞き、チャールズの反対運動を知った。ベンはビートルズのボイコットについてのストーリーを配信し、それはウイルスのようにあっという間に広がった。英国人はレノンの発言を笑い飛ばすことができたが、米国南部の想像力の乏しいキリスト教原理主義者は、主であり救世主であるキリストがポップグループと同一視されたことにがく然とした。アラバマ州では、筋金入りのビートルマニアさえもが、キリストの側に付かなければならなかった。



「特にバイブル・ベルト(米国中西部から南部にかけてキリスト教が熱心に信仰されているエリア)での反響が大きかった。南部では大騒動だった」とジョージ・ハリソンは『アンソロジー』シリーズで振り返っている。ニューヨーク州オグデンズバーグから遠くユタ州ソルトレイクまで、あっという間に数十局がWAQYに続き、ビートルズの音楽をボイコットした。放送中に実際にレコードを破壊するというジョッキーまで現れた。リノ(ネバダ州)のKCBNは1時間に1度アンチビートルズ声明を流した。キャンペーンの非公式スポークスマンのチャールズとレイトンも、負けじとリスナーにビートルズのレコードや関連商品を送るよう促し、工業用粉砕機で破壊すると予告した。同市のデイリー・グリーナー紙はこう書いている。「バーミンガム市議会から借りた"ビートル粉砕機"にかけた後、残るのは細かいちりだ。8月19日、ここからそう遠くないテネシー州メンフィスのコンサート会場に到着するビートルズには、箱一杯のちりを贈ろう」

破壊行動はすぐにエスカレートし、不快にも第三帝国(ナチス政権下ドイツ)を彷彿とさせる一連の大々的な焼却活動が始まった。ラジオ局は手持ちのビートルズのレコード全てに公然と火を付け、サウスカロライナ州のクー・クラックス・クラン(KKK)のグランド・ドラゴンは、ビートルズの複数のアルバムを十字架に張り付け、同州チェスターでの"ビートルたき火"で火をつけた。アラバマのKKK司令官、ロバート・シェルトンは、ビートルズは共産党に洗脳されたと断言し、公民権を支持したことを批判した。

オハイオ州クリーヴランドのサーモンド・バブス師は、彼の集会に所属する者がビートルズのコンサートに行こうものなら必ず除名処分にすると脅し、テキサス州ウェザーフォードのKZEE局は「彼らの曲を永遠に呪う」と言った。非難の声はローマ法王の耳にまで届き、ローマ教皇庁のオッセルヴァトーレ・ロマーノ紙を通してレノンの発言をこう批判した。「たとえそれがビートニクの世界のことであっても、冒とく的に語られるべきではないことがある」(当時まだアパルトヘイト下の)南アフリカ政府や(フランコ総統の独裁政権下の)スペインも公式に抗議声明を発表した。

その頃悪性のインフルエンザにかかっていたブライアン・エプスタインにとって、ボイコットのニュースは最悪のタイミングで入ってきた。その数日後、ビートルズの最新アルバム『リボルバー』とシングル曲『エリナー・リグビー』は、8月5日に同時リリースされる予定だった。レコードが売れないことより懸念されたのは、差し迫る全米ツアーで、まさに危険地帯である米国南部を回ることだった。NME誌では"つまらないことで大騒ぎしている"と片付けたが、内心はビートルズに重大な被害が及ぶのではないかと激しく恐れていた。

Translation by Cho Satoko

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