ジョン・レノンの「キリストより有名」発言論争の真実

体中にじんましんができ、インフルエンザの影響で足元がふらつく中、被害対策のためエプスタインは独りニューヨークに飛んだ。「彼はビートルズが攻撃され、危険が及ぶことを一番心配していた」エプスタインの腹心の友であり米国でのビジネス仲間であるナット・ウェイスは、作家のフィリップ・ノーマンにこう語っている。「最初に"ツアーのキャンセルにいくらかかる?"と聞かれたので、"百万ドル"と答えた。するとブライアンはこう言った"僕が払う。自腹で。メンバーの誰かに何か起きたら、僕は絶対に自分を許すことができない"」

ビートルズ関係者が、レノンの発言は誤って引用されたとか、オフレコの発言だったなどと主張し、クリーヴに責任転嫁しなかったのは立派なことだった。クリーヴは事態を収束させるため、自発的に釈明を行った。「当然ながらジョンは、ビートルズをキリストと比較したわけではない。彼は単に、キリスト教の衰退の現状や、多くの人にはビートルズの方が知られているという状況を観察していたに過ぎない」デイトブック誌のアーサー・ウンガーさえも声明を発表した。レノンには「発言する完璧な権利があった。それは、他の人たちが彼の意見に異議を唱える権利があるのと同じだ。...10代の読者は、多くの大人よりも成熟した見方をしていた。彼らはジョンの言わんとすることを読み取り、彼の発言の要点を理解し、自分の立場を決めることができていた」と語った。

謝罪どころかコメントを出すことを拒否したのはレノン自身だった。彼は、後にこう語っている。「(そのことについては全て)忘れた。そのくらい取るに足らないことで、過ぎたことだった」

騒動の初期の頃は、ビートルズメンバーは4人とも少し面白がって観察していた。「僕らは全然深刻に考えていなかったことを認めないとね」マッカートニーは伝記作家バリー・マイルズにこう語っている。「僕らは、"何が起きているかは明らかだ。ヒステリックで低レベルのアメリカ人の考え方だ"って単純に考えていた」そして4人は、レコードを燃やすには購入する必要があるとすぐに指摘していた。「大したことじゃない。燃やしたければ燃やせばいい。レコードをかけるのは強制じゃない。僕らはバランスの取れた見方をしていた」

エプスタインは、頑固なレノンにカメラの前で謝罪させることなどできるはずもなく、自ら尻拭いしなければならなかった。8月6日、世界中の報道機関から参加を切望する記者を招き、ニューヨークのアメリカーナホテルで会見を行った。常に紳士であるエプスタインは飲み物とオードブルが行き渡るのを待ち、事前に準備した声明を読み上げた。それはレノンがしぶしぶ同意したものだった。

「3か月以上前にジョン・レノンがロンドンのコラムニストに語った言葉は、発言の文脈から離れて引用、解釈された」会見はこのように始まった。「過去50年に渡り、英国国教会、すなわちキリスト教への関心が薄れていることに驚いている、という意味でレノンは発言した。彼は、ビートルズの名声を豪語したわけではない。若い世代には、ビートルズの方が即時的な影響力があるようだと言いたかっただけだ」

Translation by Cho Satoko

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