「どうやら僕の樹には誰もいないようだ(No one I think is in my tree)」という曲の核となるフレーズはこの時点ではまだ存在せず、代わりに「俺に同調できる奴はいない(There’s no one on my wavelength)」と上からの目線で歌われている。彼特有のひねりをきかせた話し言葉のシンタックスは、この時既に完成されていた。「つまり誰もぼくを理解することはできないのさ。でもそれでいいんだ。僕にとっちゃそれほど不幸って訳じゃない(That is you can’t, you know, tune in but it’s all right/I mean it’s not too bad)」。
『アイ・アム・ザ・ウォルラス(原題:I Am the Walrus)』の時のように1日1行のペースで進むこともあったが、レノンの曲作りはいつも速かった。1曲を数ヵ月も温めることはなかった。ところが『ストロベリー・フィールズ』は違った。この曲作りのプロセスは、レノン自身の自信喪失と自己過信の両方を映し出している。
「俺は変わり者なんだ。2番の出だしは“どうやら僕の樹には誰もいないようだ”とした。俺はシャイすぎて自信を失っていたんだ。“俺ほどいかした奴はいない”ってことを言いたいんだ。俺はクレイジーか天才か。つまり“それが高かろうと低かろうと(I mean it must be high or low)”ってことさ」、と1980年にレノンは語っている。
レノンはとてもリラックスし、コードを間違えたときは独り言のようにジョークをつぶやきながら、歌詞が出てこない部分はハミングで、同じフレーズを繰り返し歌った。「どうやら僕の樹には誰もいないようだ(No one I think is in my tree)」という出だしは気に入っていたが、最終的にそのフレーズは曲の中間に収まった。
ビートルズ・ファンや好奇心旺盛な人ならきっと、レノンがこだわっていたそのフレーズを口ずさむのを止め、あの有名なフレーズ「Let me take you down ...」が出てきた瞬間に小躍りすることだろう。