2016年の人気洋楽アルバム・ベスト10

3位 メタリカ『ハードワイアード…トゥ・セルフ・ディストラクト』
(原題:Metallica, ’Hardwired...to Self Destruct’)

メタリカがスラッシュメタルのルーツを放棄した90年代と00年代、古くからのファンの多くが彼らに背を向けた。本作『ハードワイアード...トゥ・セルフ・ディストラクト』は、80年代のサウンドに回帰した2008年作『デス・マグネティック』の延長線上にあるものの、あくまで21世紀のスラッシュメタルとして成立している。8年という長いブランクの間に、バンドはCD2枚分におよぶキラーリフを量産してみせた。セールス面での成功を度外視した挑戦的な本作は、ファンの熱狂的な支持を獲得した。来年行われるツアーでは、本作の収録曲が数多くプレイされることは間違いないだろう。

2位 ビヨンセ『レモネード』
(原題:Beyoncé, ‘Lemonade’)

今作『レモネード』で、ビヨンセは自身が現在の音楽業界における最大のスターであることを証明してみせた。HBOで放送された60分間の"ヴィジュアル・アルバム"と共に、4月23日に発表された本作に収録された12曲は、2016年を覆った不穏なムードを見事に捉えている。あらゆる評論家が今作をマスターピースと評し、ゴシップメディアはそのリリックを徹底的に分析した。本作で歌われているのは彼女の結婚生活の破綻か?『洒落た髪型のベッキー』とは誰か?彼女がそういった疑問に一切答えようとしなかったことは賢明だったと言える。全米を回るスタジアムツアーを各地でソールドアウトさせ、無数のアワードでのパフォーマンスで観衆を沸かせた彼女は、間違いなく2016年の顔だった。

1位 デヴィッド・ボウイ『ブラックスター』
(原題:David Bowie, ‘Blackstar’)

『ブラックスター』の発売からわずか2日後にこの世を去ったデヴィッド・ボウイが、本作の制作中に絶えず死を意識していたことは間違いない。サックス奏者のダニー・マッキャスリンをはじめとする、ニューヨークのジャズ・シーンのキーマンたちを迎えて制作されたこの7曲に込められた重みを、人々は本作を手にした2日後に初めて知ったのだった。10分に及ぶタイトル曲は『ステーション・トゥ・ステーション』を彷彿とさせ、『アイ・キャント・ギヴ・エヴリシング・アウェイ』では、本当に大切なものは人々と共有したくないという彼の切実な思いが綴られている。健康状態の悪化を何年もの間ひた隠し続けたことは、彼のプロ意識の表れだった。人々の同情やプレッシャーを感じることなく制作された本作を、そこに潜む闇を知ることのない我々の元に届けた上で、彼はそっとこの世を去った。最高のアルバムで別れを告げる、あまりにボウイらしい幕の降ろし方だった。



Translation by Masaaki Yoshida

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