ドン・チードルの情熱の賜物『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』

そのほかの視点で語られる物語もある。デイヴィスが不当に警官にボコボコに殴られるシーンや、デイヴィスのカバー・アルバム『サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム』のジャケットを飾った彼の最初の妻、フランシス・テイラー(エマヤツィ・コーリナルディ)とのロマンスもフラッシュバックで描かれる。編集のジョン・アクセルラッドとカイラ・エムターは、デイヴィスが即興で音楽を作り上げたように、そういったエピソードを映画にふんだんに注ぎ込んだ。しかし、やはり帝王にはかなわない。誰もが巨匠になれるわけではないのだ。



最も映画が盛り上がる瞬間は、チードル演じるデイヴィスが素晴らしい仕事をしている時、つまり"ソーシャル・ミュージック"(デイヴィスはジャズという言葉を嫌っていた)を作っている時だ。デイヴィスがミュージシャンたちと1960年のアルバム『スケッチ・オブ・スペイン』を制作しているシーンは、その他のメロドラマや70年代の騒乱シーンには感じない興奮をもたらしてくれる。決まり切った常套句なんかではない何かで、デイヴィスに名誉を与えたいというチードルの切なる願いを感じるだろう。とても惜しい作品だが、作り手たちの情熱には拍手を送らざるを得ない。


『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』
監督・製作・共同脚本・主演:ドン・チードル
出演:ユアン・マクレガー、エマヤツィ・コーリナルデイほか
音楽:ロバート・グラスパー
12月23日(祝・金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー。
http://www.miles-ahead.jp/

Translation by Sahoko Yamazaki

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