ローリングストーン誌が選ぶ、2016年の知られざる名盤15枚

プリンセス・ノキア『1992』
(原題:Princess Nokia, ‘1992’)


もしあなたに大切な女性がいるなら、その人にこのミックステープを聴かせ、ランチをご馳走してあげるといい。カルヴァン・クラインのモデルも務めるニューヨリカンのMC、プリンセス・ノキアは黒人フェミニスト運動の中心的存在であり、DIY精神の伝道師でもある。彼女はこの世界の未来を担う女性の1人だ。アニメに夢中だったスパニッシュ・ハーレム育ちのサイバー少女は、ユニークな2014年作『メタリック・バタフライ』で鮮烈なデビューを果たし、昨年の『ハニーサックル』では往年のドナ・サマーを彷彿とさせる存在感を見せつけた。そして今年リリースされたミックステープ『1992』で、彼女はかつて愛用したセーラームーンの手袋を脱ぎ捨て、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンを担う存在として、堂々たるパンチラインの数々を繰り出している。『トンボイ』では学校で辱められた経験を勲章のように誇ってみせ、『ブルージャス』ではヨルバ人とタイノ族としての自身のルーツと向き合うかのように、彼女を認めようとしない人々に恐るべき迫力で凄んでみせる。「あたしをナメてると火傷するよ」彼女はまさに火の玉だ。Suzy Exposito


バーブラ・ストライサンド『アンコール』
(原題:Barbra Streisand, ’Encores: Movie Partners Sing Broadway’)


名だたるハリウッドスターたちをゲストに迎えた、バーブラ・ストライサンドの35枚目のアルバムとなる本作は、『コーラスライン』『アニーよ銃を取れ』『サウンド・オブ・ミュージック』等、ブロードウェイのクラシックミュージカル曲のカヴァーアルバムとなっている。ストライサンドの存在感は言うまでもないが、本作で初めてその歌声を披露したハリウッドスターたちによるパフォーマンスが、本作に多様な魅力をもたらしている。メリッサ・マッカーシーを迎えたコメディタッチな『あなたに出来ることなら何でも』、『スター・ウォーズ / フォースの覚醒』で脚光を浴びたデイジー・リドリーとアン・ハサウェイがファニー・ブライスと張り合う『アット・ザ・バレエ』等、聴きどころ満載の一枚となっている。Brittany Spanos


アディア・ヴィクトリア『ビヨンド・ザ・ブラッドハウンズ』
(原題:Adia Victoria, ’Beyond the Bloodhounds’ )


ナッシュヴィルのアディア・ヴィクトリアのデビューアルバム『ビヨンド・ザ・ブラッドハウンズ』に、カントリーやアメリカーナといったジャンルには収まりきらない魅力が宿っているのは、彼女の楽曲がそういったオーディエンスを意識したものではないからだろう。『メキシコ・ブルース』や『ヘッド・ロット』は、カントリーやフォーク、あるいはブルースからの影響を滲ませているものの、そのステレオタイプを否定するかのように高らかに鳴り響くエレクトリックギターと、南部に生きる有色人種の女性としての辛辣な観察眼が、本作に独特の緊張感をもたらしている。『スタック・イン・ザ・サウス』で彼女はこう歌う。「サザン・ベルなんて私の人生とは無縁 / 搾取の対象は肌の色で決める / それが私の知ってるサザン・ヘル」コンテンポラリー・ミュージックの世界での成功よりも、魂の声としての表現を追求する彼女の姿は、黒人女性の権利を主張し続けたニーナ・シモンを彷彿とさせる。Jon Freeman


Translation by Masaaki Yoshida

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