映画『ラ・ラ・ランド』:あなたを虜にする魔法のような現代ミュージカル

このオープニング・シーンは、まるで映画のタイムカプセルのようである。クラクションが鳴り響く。フリーウェイの渋滞にはまった若者たちは興奮し、怒鳴り合う。チャゼルのカメラは、そんなロサンゼルスの典型的な日常を映し出す。そして突然、喧騒が止む。車から飛び出した人々が、『アナザー・デイ・オブ・サン』のリズムに乗って踊り出すのだ。

この華麗なる楽曲は、チャゼルのハーバード大学時代の同級生ジャスティン・ハーウィッツによるもので、その素晴らしい歌詞はベンジ・パセックとジャスティン・ポールが手がけている(彼らは素晴らしいブロードウェイ作品『Dear Evan Hansen』で名をあげた)。このシーンは、E-Zパス(アメリカのETC)を封鎖し、ロサンゼルスのダウンタウンにつながるフリーウェイの傾斜路で撮影された。振付師のマンディ・ムーアが振付を担当し、100人以上のダンサーが参加しテイル。撮影に2日かかったというこの壮大なシーンは、今後何年も人々を陶酔させ続けるだろう。


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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

やがてミアとセブは仲違いを解消すると、夢の国『ラ・ラ・ランド』でいじらしくじゃれ合い始める。ミアは、セブが作曲したジャジーでメロウな一曲『シティ・オブ・スターズ』を聴く。これは主題歌賞部門でオスカーを獲るべき一曲だ。二人はハリウッドヒルズでゆらゆらと『ア・ラヴリー・ナイト』で拍子を合わせ、互いの距離を縮めていく。セックスなんて簡単だが、"愛"を育てるのは難しい。絆を深めた二人は、一緒にジェームズ・ディーンの代表作『理由なき反抗』を名画座に見に行き、その後、映画に出てくるグリフィス天文台に向かう。そう、星空の下で踊るためだ。スウェーデン出身の偉大な撮影監督、リヌス・サンドグレン(『アメリカン・ハッスル』)が詩的な映像美でドラマを彩る。

しかし、二人の関係は現実に直面して徐々に崩れていく。オーディションの最中にも関わらず、スマホをいじりあくびをするキャスティング・ディレクターたちに、ミアの忍耐は限界に達していた。セブは知人のキース(ジョン・レジェンド)率いる人気ポップ・ジャズ・バンドに加入し、ツアーをこなしながら商業路線に向かっていく。ミアとセブの心が離れていくにつれ、映画は快活なハリウッドの名作ミュージカル(『雨に唄えば』『バンド・ワゴン』)から、ジャック・ドゥミのほろ苦いミュージカル『シェルブールの雨傘』の趣きへと様相を変えていく。チャゼルは自身のアイデンティティを保ちながら、それら名作の要素をうまく作品に取り込んでいる。

Translation by Sahoko Yamazaki

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