ジャック・ホワイトが語る、アーティストが果たすべき「使命」とは?

2012年の『ブランダーバス』、そして2014年の『ラザレット』発表後、ホワイトは精力的にツアーを行っていたが、過去2年はオフに当てていた。「子どもたちと過ごす時間をもっと持ちたかったんだ。全員まだ10歳にも満たないからね」。楽曲制作を再開するにあたり、ホワイトは故郷ナッシュビルにアパートを借りた。「14歳の頃に持ってた機材を使ってアルバムを作るっていうコンセプトを思いついたんだ。これまでに培ってきた知識や経験を生かせば、同じテープリールやミキサーでも、当時とはまったく違う使い方ができるんじゃないかと思った」

最初に出来上がった「コネクテッド・バイ・ラヴ」では、決して後戻りできない道を進んだ人物が、過去の恋人に許しを請うというストーリーが綴られる(ホワイトはその内容をフィクションだとしている)。シンセがリードする同曲は当初、「インフェクテッド・バイ・ラヴ」と題されていたという。「あの曲を聴いたら、人は俺がSTD(性病)か何かなんじゃないかって思うだろうね(笑)」。ホワイトは笑ってそう話す。「あの曲が意味するところを、俺自身まだ完全に理解できてないんだ。あのメロディは自然に出てきたんだよ、俺の深い部分からね」

招集したミュージシャンたちとスタジオに入ったホワイトは、お気に入りでありながら長年お蔵入りとなっていた「オーヴァー・アンド・オーヴァー・アンド・オーヴァー」のレコーディングに挑んだ。13年前に書かれた同曲は、ザ・ホワイト・ストライプス、ザ・ラカンターズ、そしてジェイ・Zとのコラボレーション・プロジェクトにおいても収録が検討されながら、未だ日の目を見ていなかった。「あの曲の完成は孫に任せようと思ってたくらいさ。あれは俺にとっての“モービー・ディック”みたいなもんだ。挑戦と挫折を何度も繰り返し、やっと納得がいく形で完成したんだ」

新作を引っさげて、ホワイトは5月から再びツアーに出る。最近は子どもたちとの時間を持つために、ツアー期間中はオンとオフを2週間おきに繰り返すことにしているという。「父親としては、あまり褒められたことじゃないのかもしれないけどね。家族を養うための方法なら、他にいくらでもあるわけだしさ」。そう話しながらも、彼は新たなメンバーたちと共に、新しい場所に行くことを楽しみにしている様子だ。2012年のツアーでは、公演ごとに女性だけのバンドと男性だけのバンドを使い分けていたが、今回は全公演が固定のメンバーで行われるという。同ツアーにはニューヨークのガバナーズ・ボールを含む、複数の夏フェス出演も組み込まれている。「ミュージシャンである限り、今やフェスへの出演は必須だ。たとえ本人が望むまいとね」。彼は不機嫌そうにそう話す。


2014年のガバナーズ・ボールでのジャック・ホワイト photo by Griffin Lotz

ホワイトは今作の制作プロセスが、ザ・ホワイト・ストライプス時代の「レコーディングからミックスまで、全部1週間以内に終えていた」というアプローチとはまったく異なることを認める。それでも、彼は過去のレコードと新作には重要な共通点があると語る。「俺はいつだって自分の限界に挑戦してきた。絶えず自分の可能性を押し広げていくこと、それはアーティストたるものの使命なんだ。他人の力でそれを成し遂げようとするヤツは少なくないけど、俺はそういう人間をリスペクトしない。そんなやり方じゃ、新しい音楽は生まれてこないからだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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