80年代生まれの焦燥と挑戦:村松拓 「カリスマを追うのではなく、新しいことをやる」

ー 村松さんは、年齢的にも、エアジャム世代のシーンは見てこられていますよね。

村松 10代の頃からHUSKING BEEやBRAHMAN、THUMBが大好きで、そういうインディーズから出てきた人たちのシーンは憧れでした。でも、たとえばメロコアの持つ空気感に、自分自身がやるという意味では当時飽きていたのもあって。それはちょっと上のストレイテナーとかの世代も同じ感覚じゃないかなと僕は勝手に思ってるんですけど。上の世代のカリスマは明らかに存在していて、だからそれを追うんじゃなくって、何か新しいことをやらないと、という。でもそうなると、お手本がいるわけではないし、自分たちは誰と対バンしたらいいんだろう、とか。そういうことで結構悩んできたし、それは今でもそうですね。

ー NCISになってからは、途中メジャーレーベルでの契約と活動も経て、またインディーズの自分たちで物事を決めやすい基盤に戻ってきたような印象です。

村松 なんというか、逆に……どういうふうに説明したらベストかわからないですけど、NCISを始めてからの方がインディーズスピリットみたいなものが自分の中ですごく強くなっているな、と。バンドにとって何が重要かは、結局全てこの4人、自分たちで決めていくべきなんだよなってことに戻ってきてます。何だろう、今ってインターネットがあって、SNSがあって、何でも自分たちで発信できる時代になってきて、誰でも主役になれるというのをYouTuberの人たちとかを見ていても思うんですよ。

ー 確かに。

村松 で、その感じって、よく考えたらバンドではずっと前からやっていたものだよなって、そういうSNSの時代になって改めて気付かせてもらったような面も大きいんです。

ー そういう気持ちの面での確信はステージや、歌詞にも現れてくるものですか?

村松 2017年の初頭にやったツアーで、結構明確に、メンバー4人とも目標が変わったんですよね。なんというか、自分たちで構築してきたものへの自己満足よりは、よりお客さんを熱狂させる方向に気持ちがシフトした時期で。あの時期がすごく濃かったのは確かです。

ー 積み重ねてきたものが、何か確信になったような。

村松 詞の話でいえば、今や、ABSTRACT MASHの時に書いていたものとはもう100%真逆の歌詞を書いている。伝わる言葉、届く言葉、より刺さるとはなんだ、というような。ようやくそういう部分が、自分でも理解できてきた、という手応えは、最近ありますね。

ー すごい変化ですね。

村松 自分が何を感じとるかの感覚が変わってきているんだなあ、と。例えば、先日、昔から大好きだったイギリスのフィーダーと共演したんですけど、10年前に聴いていたものと、今の自分が彼らの音に対して何を思うかが全く違うな、って思ったんですよね。昔は言葉をここまで気にしていなくてひとりで気持ちよくなってたけど、今は歌っている言葉が気になるようになっていた。そういう、大きなところへ届けるような歌を書く。



村松拓がレコメンドする作品

『Pushing The Senses』FEEDER
1994年から活動を続けるイギリスのロックバンド、フィーダー。こちらは2005年リリースの5枚目のアルバム。グランジ色の濃かった初期から現在まで、20年以上のキャリアのなかで様々なロックを内包する。2017年に来日しNCISも共演を果たす。


ー そういった、さらに一歩進もうという腹の括りのようなものを、ライブからも感じます。

村松 ほんとですか。自分はひねくれていると思ってるんですけど、年々オーディエンスとのつながりなどが実感できるようになってきて、それがちょっと書けるようになったり、ステージでも出せるようになってきたのは大きな変化ですよね。

ー これまでとは真逆のことすらできるようになったNCISのバックグラウンドの厚さは、他に類を見ない音楽を生み出してもいますよね。

村松 2017年は台湾と上海で初めての海外公演を経験して。もっといろんな人を感動させたり自分たちもこれまでにないものを作り続けるには、アイデアをはじめいろんな感覚をインストールして更新して。もっとバンドとしていろんなところに出ていき、いろんな感性を持っておかないといけない時に来ているな、とつくづく思ってます。


村松拓
1982年、千葉県生まれ。ELLEGARDENの生形真一(Gt)、ストレイテナーの日向秀和(Ba)、FULLARMORの大喜多崇規(Dr)との4人で、2008年に始動したNothing’s Carved In StoneでVo&Gtを担当。それ以前は、ABSTRACT MASH(2004年結成/2011年活動休止)のフロントマンを務めていた。Nothing’s Carved In Stoneとしては、2018年2月14日にニュー・アルバム『Mirror Ocean』をリリースするほか、翌月より全国ツアーの開催が決定している。10月7日には10周年記念ライブを日本武道館で行う。
http://www.ncis.jp/


Edited by Emiri Suzuki

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