名声の「負の側面」を描いたJ・コール、ジャック・ホワイトが見出した新鋭など、ストリーミングで楽しむ10作品

冷たさと苦悩が増したJ・コールの新作『K.O.D.』

名声の「負の側面」を描いたラッパーのJ・コール、ジャック・ホワイトのレーベルに所属するジョシュア・ヘドリーのデビュー作、本人も驚きのメンバー編成で制作されたメルヴィンズの新作など、今聴くべき作品をローリングストーンUS版のライターが紹介。

1:アシュリー・モンロー『Sparrow』
ミランダ・ランバートのピストル・アニーズの仲間たちは懐かしいカントリー音楽らしいドラマが大好きだ。モンローはこの作品でテクニカラーな音風景を描写している。オーケストラ風のストリングス、レトロ・サウンドの魔術師でありプロデューサーのデイヴ・コブが奏でる「Ode to Billy Joe」的なフォーク・ギター。70年代の色気を現代にアップデートさせた「Hands On You」は必聴。
評:ウィル・ハーミーズ
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2:J・コール『K.O.D.』
一時はケンドリック・ラマーやドレイクといった同世代スターと比較されがちだったノース・カロライナ出身のJ・コール。その音楽が開花したのが『2014フォレスト・ヒルズ・ドライヴ』だった。この作品では、多額の予算を投じた見せ場満載のラップ・スタイルを捨てて、セルフ・プロデュースらしい独特のオーガニック・サウンドを採用。本作もその延長線上で作られているが、2016年の『4 Your Eyez Only』よりも冷たさと苦悩が増している。関連性の低いエピソードが散りばめられている印象もあるが、「Friends」では仲間がドラッグの犠牲になった様子を嘆き、「Kevin’s Heart」では自身のセックス中毒を取り上げている。時折出てくるトラップ的な比喩はコール自身が楽しんでいない雰囲気が明らかで、自身がラップ・マトリックスから抜け出せないことを示唆するサウンドとして利用しているようだ。慰めもなく、命を削る名声の負の側面を照らし出しているのが今作『K.O.D.』だが、面白さも十分にある。J・コールは常に自分自身を超える男のようだ。
評:モジ・リーヴズ
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3:ブラザーズ・オズボーン『Port Saint Joe』
2枚目のアルバムで彼らは驚異的な広さのテリトリーをカバーしている。アルバム・タイトルは、プロデューサーのジェイ・ジョイスと今作をレコーディングしたフロリダ州のメキシコ湾岸沿いの町の名前だ。リード曲の「Shoot Me Straight」は物事の断絶がテーマの6分間のロック大作。ヴォーカリストのTJオズボーンが深いバリトンで「190cmもある巨体のケツを地面に下ろす」と歌い、曲の後半ではギタリストのジョン・オズボーンが目のくらむ派手なギターを見せつける。また、「A Couple Wrongs Makin’ It Alright」ではジェリー・リード風のカントリー・ファンクを、「Drank Like Hank」ではハードにドライブするロックを、「Pushin’ Up Daisies (Love Alive)」ではキラキラ輝くカントリー・ソウルを披露している。そして「In Weed, Whiskey and Willie」では酒の匂いが染み付いた往年のカントリーをきっちり演奏し、正統なカントリー・ミュージシャンとしての巧みさも証明している。
評:ジョン・フリーマン
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4:ジョシュア・ヘドリー『Mr. Jukebox』
ジャック・ホワイトが自身のレーベルThird Manで2人目のカントリー・アーティストと契約したとき、ヘドリーは生涯契約を手に入れた。長い間、ナッシュビルの安酒場に出入りするサイドマンだったジョシュア・ヘドリーは、何でもこなす音楽の名手だ。熟練のフィドル奏者であり、器用なソングライターであり、純粋さを持ったヴォーカリストである。そのすべてが余すところなく発揮されているのがこのデビュー作で、アウトロー的な昨今のカントリーのトレンドだけでなく、かつての街角で聴こえたカントリーソングのようなシンプルなサウンドもしっかりと押さえている。「Let’s Take a Vacationでは、ジョージ・ジョーンズの「He Stopped Loving Her Today」的な歌詞を優しくささやきながら歌っている(「ハニー、最後に俺たちが燃え上がったのは随分前じゃないか」とヘドリーがささやく)。「I Never Shed a Tear for You」にはアニタ・カー・シンガーズ風の滑らかなバックコーラスが入っている。そして、アップテンポの「Weird Thought Thinker」はその間抜けさがロジャー・ミラーを彷彿させる。しかし、ヘドリーが本領を発揮しているのは、不器用な男の別れ歌「Don’t Waste Your Tears」だ。
評:ジョセフ・ハダック
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5:キンブラ『Primal Heart』
ニュージーランド出身の不思議系歌姫のサード・アルバムは、2014年の『ザ・ゴールデン・エコー』と似たカオスを保ちつつ、それ以上に窮屈なポップスのヴィジョンを提示している。これが2018年らしさなのかもしれないが、今作には不安定な雰囲気が漂っているのだ。豪華なシンセポップの「Like They Do on the TV」は、『マイアミ・バイス』そのままのサックスと、疲れ果てながらも希望を失わない歌詞でできている。輝くミラーボールのような「Light Years」は恋愛を求める心に隠れている不安や恐怖を暴露し、ザラザラした感触の「Top of the World」はキンブラのMCとしての才能を披露して、いかなる疑惑も放棄したキンブラの息を殺した自己肯定が低音のループの中で主張されている。しかし、自分の音楽に乗って暗闇のトンネルを抜け出したいというキンブラの強い思いが、今作『Primal Heart』に爽快さを与えている。
評:モーラ・ジョンストン
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Translated by Miki Nakayama

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