来日控えるライ、繊細なサウンドに込められた美意識を柳樂光隆が掘り下げる

ライの音楽はどこが特別なのか?

―『Woman』が出てから少し経つと、インディR&Bのプロダクションは一気に飽和状態になったじゃないですか。そのなかで、ライの音楽はどこが特別だったと思います?

柳樂:体温の低さじゃないかな。セクシャルな歌詞やアートワークの抽象性もあいまって、音楽的にデッドな空間のサウンドというか、パーソナルな感じがしますよね。それに、ライの音楽はたしかに幻想的だけど、非日常というわけでもない気がしていて。それよりは、日常における性愛描写をさりげなく切り取っている感じに近い。そこがまた、いいんだと思います。

―夢のなかよりも、朝の微睡みに近い感じ。

柳樂:そうそう。普通のラヴソングだと、好き、悲しい、会いたいとか感情を強く押し出すわけだけど、そういうのとは違いますよね。恋人はすでに隣にいて、いまさら強く求めるような感じではない。もっと言えば、バラードじゃないのがよかったんじゃないかな。スムースで暑苦しさのない平熱の感じっていうか、スローセックスみたいな音楽ですよね。

―その淡いムードがあるからこそ、フランク・オーシャンとも隣り合う同時代的なメロウネスが獲得できたんでしょうね。

柳樂:それもあるし、一昔前でいうフリーソウルの美意識とも重なる部分があるのかな。バンドとしての佇まいや淡い世界観も含めて、一つの美意識に基づいてしっかりコントロールされている。要するに、日本のリスナーが愛してやまないタイプの洋楽ですよね(笑)。

―あと『Woman』は、生楽器とエレクトロニクスの重ね方も絶妙だったじゃないですか。あれはライの片割れだった、ロビン・ハンニバルの手腕に因るところが大きかったんですよね。彼は近年もプロデューサー/作曲家として活躍中で、最近だと『ブラックパンサー』のサントラにも1曲参加しています。

柳樂:そうなんだ。


クァドロンの2013年作『Avalanche』

―そのロビン本人も参加している男女デュオ、クァドロンの近作はエレクトロニック・ソウルをベースとしつつ、中南米っぽいトロピカルな要素を取り入れたり、ライよりも色彩豊かな内容で。かたやミロシュは、自身のソロ名義だともう少し淡白だったり、趣味的かつノワールな雰囲気が強調されている。

柳樂:どちらもすごくいいんだけど、『Woman』はポップだけどポップ過ぎない、絶妙なバランスに支えられていますよね。そういうアルバムで成功を収めたのは、2人にとっても転機になったはず。


ミロシュの2013年作『Jet Lag』

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