鋭さを増したコートニー・バーネットの新譜、Gasのアンビエント・テクノなど、ストリーミングで楽しむ10作品

スティーヴン・マルクマス(左)、コートニー・バーネット(右) ©︎Giovanni Duca, Pooneh Ghana

注目を集めた2015年のデビュー作に続く2ndアルバムを発表したコートニー・バーネット、安定感抜群のスティーヴン・マルクマス、アトランタのラッパーの初メジャー・プロジェクト、ゴスポップ・カルテットWax Idolsの哀歌など、今聴くべき作品をローリングストーンUS版のライターが紹介。

1:コートニー・バーネット『Tell Me How You Really Feel』
豪メルボルン生まれのギタリストの2枚目のアルバム。2015年のデビューアルバム『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』よりもノイジーで、怒りのメーターが上昇していて、彼女のトレードマークである辛辣さと深い洞察力という剣で切り込みながら、新たにシャープな真剣さをむき出しにしている。彼女の頭の中もある愚劣さを含むすべての愚劣さを蹴飛ばしながら、バーネットは感動するほど寛大な魂で私たちにも同じことをしようと呼びかけている。
評:ウィル・ハーミーズ
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2:パーケイ・コーツ『Wide Awake!』
ウィル・ハーミーズの評によれば、米ブルックリン出身のポストパンク・リバイバル・バンドの5枚目のアルバムの歌詞のテーマを決めているのは「大局的に見た懸念とびっくり仰天な憤怒」らしい。しかし、彼らの革命は踊ることを許可しているだけでなく踊れと煽っている点だ。「デンジャー・マウスのライトタッチなプロダクションのおかげで、この作品はパーケイ・コーツで最もファンキーで最もスウィートな音楽となっていて、花火のようなギターが鳴りを潜め、ダンサブルなジャムが展開されている」とハーミーズは綴る。
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3:ロー・カット・コニー『Dirty Pictures (Part 2)』
2017年の『Dirty Pictures (Part 1)』のフォローアップとなる今作は「セッティングの方向転換が大胆に行われているがクオリティは相変わらずだ」と、デヴィッド・フリッケが評論している。そして「ロー・カット・コニーは自分たちのルーツや価値観という点では反抗的なまでにオールドスクールだ。しかし『Dirty Pictures (Part 2) 』は前作同様に、それ1枚でも宣教師的な熱意のこもった傑作として成立している」と続く。
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4:スティーヴン・マルクマス&ザ・ジックス『Sparkle Hard』
ジョン・ドランは、元ペイヴメントのリーダー、スティーヴン・マルクマスの通算7枚目には「我々が彼に期待するすべてが詰まっている。非常に巧みな旋律の美しさ、プログレ、フォーク、ソフトロックと幅広いギタープレイ、くつろぐ時間に聴くのにもってこいで、かつてよく聞いていたThinking Fellers Union Local 282のアルバムよりも、今ではフリートウッド・マックの『Bare Trees』を好んで聴く子持ちのファン層に完璧な一枚」と評している。
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5:リル・ベイビー『Harder Than Ever』
優勢なラップ帝国Quality Control全面バックアップのおかげで、このアトランタのラッパーは自身の才能を脅かすほどの高い評判を楽しんでいる。しかし、彼には確固とした彼らしい声があり、初のメジャー・プロジェクトでは、起伏のあるオート・チューン使いとぶっきらぼうだが威勢のいいラップを上手く組み合わせる手腕を見せている。ストリーミング・フレンドリーなストリートラップを知っている人であれば理解できる領域で、彼はこれを落ち着き払って作っている。「Yes Indeed」でコラボしているドレイクですら、リル・ベイビーの無終止文(※ピリオドや接続詞を使わずにカンマやセミコロンなどで複数のセンテンスをつなぎ合わせた文)のフローを取り入れているようだ。プロデューサーたちがソリッドなプロダクションを心がけたおかげで、ベイビーのプロジェクトは豊富すぎるコンテンツという落とし穴に陥らずに済んでいると言える。調子はずれで湿ったシンセサウンド、Turbo the Greatのロールするトラップドラム、スイス人プロデューサーOZの「Bank」、Quay Globalのネオン・シンセ・ポップの「Cash」など盛りだくさんだ。この作品に音楽的な葛藤はほとんどない。しかしベイビーは「Southside」で過去のD-Boy時代を思い出し、「Right Now」では「俺は牢屋に戻る夢を見て目が覚める/遅くまで起きていられないようにアデロールを飲んでいる」と歌っている。
評:モジ・リーヴス
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6:Gas『Rausch』
ミステリアスに、そしてメランコリックに、テクノ・アンビエント・サイケデリア・シューゲイズ・ノスタルジアの境界線を曖昧にした5枚のアルバムが高評価を受けた後、ウォルフガング・ヴォイトのGasがこれまで以上に広範囲で、最高に野心的な作品で帰ってきた。『Continuous Mix』のタイトルで60分間のダウンロード版もリリースされているアルバム『Rauch』は、スースーと音をたてる霧、黒いアンビエントの雲、泣き叫ぶストリング、ピンポンのようなシンバルを通って進む長旅だ。大げさなドローン・サウンドの上のうっそうとした木立の中から出てくるサウンドは何かのクリーチャーのようでもあり、その音符は夜中に通り抜けていく車から聞こえるラジオの音のように聞こえては消える。遠くに聴こえるハウスビートは過去のダンスフロアの記憶かもしれないし、印象派的色合いのシンフォニーの中を導く灯台かもしれない。
評:クリストファー・R・ヴァインガルテン
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7:ザ・ラスト・ポエッツ『Understand What Black Is』
激しいブラック・パワー・ムーブメントの最中に生まれたザ・ラスト・ポエッツ。彼らは若い扇動者として音楽活動をスタートし、ラップの前身の怒れるポエムがつまったアルバムを制作し、その後の世代に大きな影響を与えた。しかし、そんな話は何十年も前のことだ。ウマー・ビン・ハッサン、アビオーダン・オイウォール、パーカッショニストのドン・ババチュンドゥのトリオがラスト・ポエッツとして、イギリスのダブ・ミュージシャン・チーム Nostalgia 77とPrince Fattyとコラボレーションし、たくさんの知恵と歴史的な逸話がつまった収穫時期のレゲエ畑のような作品を完成させた。オイウォール作のタイトル・トラックは初期の「Black Is」を連想させるが、自負心を熱く訴えるのではなく、穏やかに言い聞かせる雰囲気だ。ハッサンは「North East West South」でファンクの天才プリンスを追悼している。そして不穏な空気の「Rain of Terror」でオイウォールはアメリカの帝国主義に一撃を食らわせている。ラスト・ポエッツの二人の存命者が作った今作は全盛期だった70年代の作品よりものんびりした雰囲気かもしれない。しかしオイウォールの紙ヤスリのようなバリトンと、ハッサンの火花が飛ぶようなテノールは、相変わらず聴く者の耳を捉えて離さない。
評:モジ・リーヴス
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8:マシュー・スウィート『Tomorrow’s Daughter』
コリー・グロウは「アルバム『Tomorrow’s Daughter』の曲にはすべて記憶に残るボーカル・ラインがある」と評している。そして「スウィートの声には経年変化はほとんど感じられない。相変わらず非現実なまでに不機嫌な声を出しながら、同時にそれに満足しているふうでもある。まるで人生におけるすべての失望を楽しむように」と。
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9:Wax Idols 『Happy Ending』
「Mausoleum」のビデオで、ゴスポップ・カルテットWax Idolsは米オークランドのマウンテン・ビュー・セメタリーの中をのんきにドライブしている。それも、霊柩車の代わりにフォルクスワーゲン・カブリオレに乗り込んで。このシーンこそがWax Idolsの4枚目のフル・アルバムの核心を表している。この作品は、死の必然性や死神との食事を考えるダンサブルでシューゲイジングな黙想の数々を集めたものだ。2015年の前作『American Tragic』の骨まで凍える“真夜中の死のディスコ”のフォローアップとなる今作『Happy Ending』は明るめの音調になっていて、シングル「Too Late」と「Scream」にそれが顕著である。リーダーのヘザー・フォーチュンはこのカタルシスの中で自身のスター性を発揮し、他のメンバーは彼女のソウルフルな哀歌に見合う薄明かりと気概を持つようになった。Wax Idolsは90年代のサイケ・ポップ・バンドのライドやキャサリン・ホイールなどのレガシーを引き継ぎつつ、失ってしまった愛すべき彼らをほのかな光で讃えている。
評:スージー・エクスポジート
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10:メアリー・ラティモア『Hundreds of Days』
ラティモアの歌詞のない、うっとりするような旋律のこの音楽は、太平洋を望むヘッドランズ・センター・フォー・ジ・アーツの軍事基地にて他の目的のために録音されたもので、これを聴くと太陽が海面を照らす西海岸が想起される。ときにはループにし、ときには音を加工して、リオン&ヒーリー製47弦コンサート・ハープで複雑なメロディの織物を織り込んでいく。そして、その織物の中にはエレクトリック・ギター、オルガン、抽象的な声といった糸が要所要所で織り込まれていき、非常にリッチで総合的なインストゥルメンタル・ミュージックである。どの曲ももう一度聴きたくなる深遠なストーリーのようだ。
評:ウィル・ハーミーズ
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Translated by Miki Nakayama

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