ローリングストーン誌が選ぶ「5月のベスト・ラップ・アルバム」トップ10

4. DJジャジー・ジェフ『M3』

DJジャジー・ジェフの『マグニフィセント』シリーズの最終章となる今作は2000年代初期のネオ・ソウルを回帰させる内容となっている。迎えたラッパーはライムフェストを要するラップグループであるトリニティや、同じシカゴ出身のカニエ・ウエスト夫妻とのビーフで有名なデイン・ジョーダンとアミーアが参加。共にザ・ルーツのメンバーであるジェームス・ポイサーとストロ・エリオットらの演奏をビートに絡めたトラックと、トリニティのコンシャスなラップが合わさって、作品から美しい精神性を生み出している。ライムフェストは「ワイド・アウェイク」内で、「仲間のリッキーはタバコを売っていただけで殺された」「黒人のキューバ人が叩くドラムは美しいんだ」「音楽は死んでしまったが、町騒がしいままさ」「一日おきでサイレンの音が聞こえるんだ」ライムフェストを含めたトリニティのラップは深い感情を表現しているが、決して攻撃的になることはない。ディスコ調のステッパー・サウンド「2ステップ」や「スケーターズ・パラダイス」といったトラックも簡単に乗りこなし、家族とのバーベキューの時でも、ウィードを吸いながらでも聞くことのができるアルバムとなっている。

5. ジャングルプッシー『JP3』

独特の低い声を持つジャングルプッシーはその強烈なラップ・スタイルによって、歌詞の内容がどう卑猥でスキャンダラスでも、彼女の吐き出す言葉に命を与えている。新作『JP3』内の楽曲はアルバム単位でまとまっている類いの作品ではないのだが、彼女の鋭くエッジが効いたフローとチャーミングな歌い回しで印象的なアルバムとなっている。アーチスト名から連想されるように、リリックは非常に性的で「アイ・ジャスト・ウォント・イット」のサビのように「ただ男性器が欲しいだけ」といったセクシャルなリリックも頻発されている。ただし彼女がただのセックス・ラッパーではないことは「アイム・イン・ラブ」を聞けばわかる。ファンキーな曲でもハードに乗りこなすスキルの持ち主でもあるのだ。アルバムのハイライトとなる曲は「ロング・ウェイ・ホーム」、暗く繊細なトラックの上で彼女が「ペニスを感じている」と歌っており、同曲では彼女と同じく、型にはまらないラッパーの1人であるスリー・シックス・マフィアのギャングスタ・ブーが客演している。

6. ラスト・ポエッツ『アンダースタンド・ワット・ブラック・イズ』

ラスト・ポエッツは1960年代のブラック・パワー・ムーヴメントの渦中に結成された若く情熱を持ったポエトリー歌う集団であった。ラップの期限といっても良いだろう彼らの怒りに溢れたポエットは時代を超えて人々に影響を及ぼし続けている。
それから数十年が経ち、現在のメンバーであるウマー・ビン・ハッサン、アビオーダン・オイウォールとパーカッション奏者のドン・ババトゥンデの三人と、イギリスのダブ・プロデューサーであるプリンス・ファッティーとジャズ奏者であるノスタルジア77がプロダクションを担当した今作では、史実やそれにまつわる逸話や英知といった詩的内容に、レゲエという音楽の魅力が詰まった良作となっている。オイウォールが唄うタイトル曲はラスト・ポエッツが初期に残した名曲「ブラック・イズ」の現代版といえる内容だが、炎のように力強くアイデンティティを主張することなく、クールに動静を説明するような内容だ。ハッサンは「ノース・イースト・ウエスト・サウス」ではファンクの天才であったプリンスを追悼している。さらにオイウォールは「レイン・オブ・テラー」においてアメリカの帝国主義を痛烈に批判している。彼以外のオリジナル・メンバーは現在、比較的エンターテインメント的な仕ことをしているのだが、オイウォールのザラついた低い声は、ハッサンの印象的なテナーヴォイスとのコントラストを形作りながら、今も戦いを続けているのだ。



Translated by Hiroshi Takakura

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