ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』あなたが知らない10の真実

DAN EPSTEIN | 2018/06/10 09:00

| ブルース・スプリングスティーンの『闇に吠える街』は、今年発売から40周年を迎える(Photo by George Rose/Getty Images) |

1978年の名盤、ブルース・スプリングスティーンの『闇に吠える街』。70年代のロック・ヒーローとしての地位を確立したと言っても過言ではない本作だが、当時の英国のパンク、米国のクラシック・カントリーなどが果たした役割とは何か? 『闇に吠える街』発売40周年を記念して、知られざる10のストーリーをまとめた。

1987年にブルース・スプリングスティーンはローリングストーン誌に次のように語った。「夢見ていたことが現実のものとなったとき、そこには恐怖を感じる部分が確実にある。だって、もともとの期待以上の部分と期待以下の部分が混在しているからね」と。このとき、彼は1978年のアルバム『闇に吠える街(原題:Darkness on the Edge of Town)』について語っていた。「人というのは何かを夢見るときに、その達成だけを単純に期待して、それにまつわる複雑な状況は考えない。本物の夢はそんな単純な夢じゃない。夢じゃなくて現実だし、複雑な事情の絡まない人生なんて存在しないよ」と、彼は説明した。

スプリングスティーンのロックンロールの夢が実現したのは1975年。3枚目のアルバム『明日なき暴走(原題:Born to Run)』がリリースされた年だ。批評家たちに絶賛されたこの作品はビルボード200で3位に急上昇し、タイトルトラックもシングルチャートで21位となった。時期を同じくして、スプリングスティーンはタイム誌とニューズウィーク誌の表紙を飾り、1970年代のロック・ヒーローとしての地位を確立したのであった。

しかし、『明日なき暴走』の成功によって発生したのは頭痛と面倒事の大洪水だった。その影響は彼の次の作品に色濃く表れていて、レコーディングの遅れまでも引き起こした。「『明日なき暴走』が俺にもたらしたものは、スタインウェイのベイビーグランドピアノと1960年製シボレー・コルヴェット。この車はクレーガーのホイール付きで、ウェストロングビーチのカーヴェル(アイスクリーム・スタンド)の売り子をしていた少年から6000ドルで買ったやつだ」と、2016年の自叙伝『ボーン・トゥ・ラン:ブルース・スプリングスティーン自伝』(早川書房刊)に記している。「それ以外に得たものは請求書だけだ。スタジオ使用料、楽器のレンタル料、活動を継続するためにマイク(・アッペル/スプリングスティーンのマネージャー)が支払いを保留していた関係者からの請求書など。それに弁護士費用もあったし、追徴課税もあって、うんざりするほどの争いがあった」と言う。

上の複雑な事情に加えて、大ヒット作の直後のアルバム制作という大きなプレッシャーを抱えていたスプリングスティーンとEストリート・バンドは、法的にマネージャーのマイク・アッペルの許可なくしてレコーディング・スタジオに入れない状況に陥っていた。このとき、スプリングスティーンはアッペルの会社ローレル・キャニオン・プロダクションズと1972年に交わした契約書を無効にするため、アッペルを相手取って訴えを起こしていたのである。当初スプリングスティーンとEストリート・バンドのメンバーは『明日なき暴走』の次回作のレコーディングを1976年6月に始めると暫定的に決めていたのだが、のちのアルバム『闇に吠える街』となる作品のレコーディングを実際に始めたのは1977年6月だった。この少し前にスプリングスティーンとアッペルが最終的に示談に合意したのである。

『闇に吠える街』がファンに届けられたのがそれから1年後の1978年6月2日。この作品では、『明日なき暴走』のリリース後の約3年間で、サウンドもビジョンも劇的に変化したアーティストの姿があらわになった。消え去ったものは、詳細で冗長な抒情詩、フィル・スペクターの“サウンドの壁”に対する絶大な称賛、そして、どんな犠牲を払ってでも自由を手に入れようとする人物像。その空白を埋めたのが、緊張感、それまでのどの作品よりもタフさが際立つコンパクトな楽曲だった。そして、労働者階級の現実の中で身動きできない労働者たちを歌っていた。これは『明日なき暴走』で必死に抜け出そうとした現実でもあった。

「『闇に吠える街』は俺のサムライ的なレコードさ。すべてを排除して戦う作品だ」と、彼は自叙伝『ボーン・トゥ・ラン〜』に書いている。「このアルバムの楽曲の主人公たちは生き残るのに不要な信念はすべて捨てるしかなかった。『明日なき暴走』では個人的な戦いだったけど、同じ戦いの集団編がまだ続いていたわけだ。『闇に吠える街』では、俺が書いた主人公たちの生き方の政治的な意味が全面に出てきて、そういうものを包含する音楽を探したんだ」



アルバム『闇に吠える街』のリリース40年を記念して、このアルバムに関してあなたが知らない10の真実をご紹介しよう。

Translated by Miki Nakayama

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