ジョージ・ハリスン「美しき人生」とシンクロする1973年が舞台の映画

“わたしの気持ちをどう言っていいのかわからない/でも愛はいつだってあなたのためにある/教えて、あなたの愛なしの人生って何?/あなたのそばにいないわたしって誰?”

この曲が収録された『オール・シングス・マスト・パス』は、アナログディスクでは三枚組の大作でありながら、ビートルズのメンバーが解散直後に発表したソロ・アルバムとして破格の大ヒットを記録した作品だ。バンド末期にジョン・レノンとポール・マッカートニーと同等レベルのソングライターになっていたにもかかわらずアルバム中の曲数が制限されていた彼が、溜め込んでいた楽曲をまとめて発表したから。一般的にはそれがヒットの理由とされている。

でも個人的にはジョージの書く歌詞がヒットの理由だったんじゃないかと思っている。人類平和を訴えたジョン、物語仕立ての歌詞を得意とするポールと比べて、ジョージの詞には第三者の視点というものが殆どない。そのパーソナルな感性が、社会からドロップアウトするのではなく、あくまで日常を生きる個人の立場から社会改良を目指す1970年代前半のムードとシンクロしたのではないだろうか。

賞金額の格差に異議申し立てをすることで結果的に社会を変えたビリー・ジーンは、この後そこで得た名声を武器に今度は性的マイノリティの可視化と地位向上に影響を及ぼしていくようになる。そのきっかけとなった恋愛を描いたシーンにこの曲が流れるのは、だから必然のように思えるのだ。


「美しき人生(What Is Life)」
『オール・シングス・マスト・パス』収録
全米1位を記録した「マイ・スウィート・ロード」に続いて『オール・シングス・マスト・パス』からシングルカットされて10位まで上昇したヒット曲。故ロビン・ウィリアムズ主演作『パッチ・アダムズ』やアダム・サンドラーの『ビッグ・ダディ』などでも使用されている人気曲だ。

長谷川町蔵
文筆家。最新刊は『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)。その他の著書に『あたしたちの未来はきっと』(TABA BOOKS)、『21世紀アメリカの喜劇人」(スペースシャワーブックス)、「聴くシネマ×観るロック」(シンコーミュージック・エンタテイメント)など。

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