渡辺志保×DJ YANATAKE「日本のヒップホップにも恩恵、変容するストリーミング・サービス事情」

渡辺志保:Spotifyといえば、最近、R・ケリーやXXXテンタシオンらの楽曲がオフィシャル・プレイリストから外されたことも話題になりましたよね。例えば、R・ケリーの場合は彼の歌詞の内容や楽曲そのものが問題になったのではなく、彼の罪状であるとか、素行に対してSpotifyがそうした判断を下した、と。私は、何だかアーティストが問題を起こすとCDを回収しちゃう日本みたいになっちゃったなと思ってしまいました。

DJ YANATAKE:難しいよね。完成されているプラットフォームではないだろうから、ユーザーとしてはそうした措置が嫌だったら、他のサービスを使えばいいんじゃないかとも思う。ただ、今後、そのジャッジをどういうルールのもとで行っていくかが問題だよね。ただ、奇妙な行動だと思うよ。

編集部:Spotifyを見ていて思うのは、日本のバンドの曲は極端に少ないということ。きっと、彼らはまだ、ファンにCDを買わせたいからなんですよね。ただ、ヒップホップ系のアーティストはどんどん楽曲が増えてきているなと感じます。なので、ヒップホップのアーティストの方が、そういう意識改革ができてるのかなと思う程です。

DJ YANATAKE:Apple Musicのアメリカのチャートを見ても、マジで50位くらいまで全部ヒップホップの楽曲で。だから、世界的にそういう方向なのかなとも思いますね。あと、他の音楽ジャンルに比べて、ヒップホップはネットやSNSの使い方も上手いなと思うし、その分、これまではブートレッグの音源もすごく多かった。でも、そこの見えなかった数字になってなかった分、ストリーミングの方で結果が出たということだと思います。ストリーミング・サービスは、ヒップホップにとって海賊版潰しという意味でも良かったと思う。

渡辺志保:アメリカのSpotifyでは、<RapCaviar>って人気のヒップホップ・プレイリストがあって、今やRapCaviarが独占の映像を作ったり、ミーゴスらを擁したツアーを敢行したりと、それが一つのメディアみたいに機能してるんです。そういう流れもいいなと思う。



ヒップホップ楽曲と強烈な親和性の高さを見せるストリーミング・サービス。中でも、Spotifyの<RapCaviar>は、約900万人のフォロワーを誇る人気プレイリスト。旬なラッパーたちをフィーチャーし、今や、メディア並のパワーを持つまでに成長した。ちなみに本プレイリストの創始者でもあるツナ・バサ氏は、今年の春よりSpotifyを離れ、YouTubeが注力する音楽ストリーミング・サービスを担当することが報じられている。

DJ YANATAKE:そうだね。これからは、ストリーミング・サービスにおいてもどうやってヒットを狙っていくか、そういうところもちゃんと考えていかねばならない局面にあると思いますね。特に日本は、まだCDをどう得るか?というところで止まっている気がする。例えばアメリカだと、同じアルバムでも<デラックス・エディション>として、2、3曲足した状態で再発表するケースもあって、それは、再度話題を作ってストリーミング上で再度再生回数を伸ばすための戦略なんです。

渡辺志保:で、そうしてプロップスを集めたアーティストがツアーに出て稼いでいく。これからいよいよフェス・シーズンに入りますよね。日本でもケンドリック・ラマー、ポスト・マローン、チャンス・ザ・ラッパーらが夏の音楽フェスで来日する。ヒップホップ・ファンとしては、やはりこの契機に賭けたいというか……少しでも日本のファン層が広がるきっかけになればいいなと思いますよね。逆に、これでダメだったらもう無理か~、みたいな思いもありますけど。

編集部:アメリカ最大のロックフェスであるコーチェラも、今年のヘッドライナーはザ・ウィークエンド、ビヨンセ、エミネムと、ロック系アーティストがほぼ皆無だったことも話題になりました。

DJ YANATAKE:日本だけが、そこに追いついて行っていないというか……。ちなみに、世界中で記録的な成績を叩き出した映画の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』も、興行収入で一位を取れなかったのは日本だけなんですよね。『ブラックパンサー』もそうで、それぞれ、一位は国内のアニメ作品だった。



マーベル映画の大ヒット・シリーズである『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』。北米では4月27日に公開開始となり、初週末の世界興行収入は約700億円を超える驚異的な成績を叩き出した。この成績は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を超えて全米映画興収の歴代トップを誇る。日本でも公開から10日間で25億円を突破したが、興収ランキングでは公開から2週連続で『名探偵コナン ゼロの執行人』に首位を譲る形となった。

渡辺志保:海外と日本だと、コンテンツを享受する感覚にどんどん差が開いているのかなと感じてしまいますね。今、ケンドリック・ラマーがピューリッツァー賞の音楽部門を受賞して、チャイルディッシュ・ガンビーノも「This Is America」という強烈に風刺の効いた作品を発表しましたよね。カニエがトランプ指示の発言をしたという騒動もそうですけど、今のアメリカは、これまで以上に社会問題や政治的な発言をエンターテインメントのコンテンツとして発表することがとても自然になっているし、リスナーもそれを受け入れられる下地が出来ている。でも、日本はどうなんだろう?って。



ドナルド・グローヴァーという名義で俳優・脚本家・監督として、アメリカのエンタメ界においてマルチに活躍している歌手のチャイルディッシュ・ガンビーノ。彼が発表したMV「This Is America」が話題に。発表から1カ月で、再生回数は2.5億回に迫る。アフリカン・アメリカンの視点から、風刺と皮肉を銃規制問題や警察による暴行問題などを生々しく描いた内容は、多くの議論を呼んだ。まだ未見の方は、ぜひYouTubeでチェックされたい。

DJ YANATAKE:『ブラックパンサー』も、韓国が日本の3倍くらいの成績だったんだよね。このあたり、今後どうなっていくんだろうね。世界中で盛り上がっているにもかかわらず、あまりにも差が開いてるのが怖いなと思うよね。


左から、DJ YANATAKE、渡辺志保
毎週月曜日 22:00 block.fm「INSIDE OUT」

渡辺志保
毎週月曜日 22:00 block.fm「INSIDE OUT」、毎週土曜日20時 WREP「DJ’S PLAYLIST」にてラジオ・パーソナリティを担当中!
https://wrep.jp

Edited by Toshiya Ohno


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