阿部サダヲと三木監督が語る、いまこの時代にロック・コメディを作る理由

──そんなお2人がご一緒するのは今回が初めてというのも意外な感じです。キャスティングはどの段階で考えていたのですか?

三木:基本的に僕はアテガキみたいなことはしないので、脚本が書き終わってからプロデューサーと話し合ったんですが、もう7秒くらいで「これを演じられるの、阿部さんしかいないだろ」と意見が一致しました(笑)。というか、よくやって下さったなっていう感じですね。コメディの要素もあれば、ミュージシャンとして本格的に歌わなければならないし、シリアスな芝居もある。全方位的にポテンシャルがあって、これを演じられるのは世界探しても阿部さんしかいないし、そこは一切迷いがなかったんですけど、大変だっただろうなと……。

阿部:大変でした(笑)。

──阿部さんは、脚本を読んでどう思いました?

阿部:まず、「三木さんの台本ってどんなんだろう?」という興味があるじゃないですか。それまでの作品を観た限りでは、結構ユルい空気が流れてるのかなと思ってたら、ロックという骨太なテーマがまずあって、僕の演じるシンという役も、妹とのシリアスなエピソードも書き込まれてる。「全然ユルくねえぞ!」とビビりました。もちろん、「ザッパおじさん」みたいな三木さんテイストの笑いは随所にありつつ、ストレートなメッセージもあったりして。「これは面白くなるぞ!」と確信しましたね。

──吉岡里帆さん、千葉雄大さんとの共演はいかがでしたか?

阿部:吉岡さんとは初共演で、千葉さんとは2度目なのですが、それも間近で見てみたいなあと思いました。楽しかったですねえ。美術も作り込んであるし、映像も独特で。

三木:そうだね。美術班も、元を辿れば『爆裂都市』だったりするわけだから。


(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

──ロック映画だからこそ、設定やストーリーも荒唐無稽なものにできるというのはきっとありますよね?

三木:そうなんです。「今の時代のコンプライアンスって一体なんなの?」って思うわけですよ。それこそザ・フーもレッド・ツェッペリンもメチャクチャだったわけじゃないですか、ホテルはぶっ壊すし(笑)。それに比べたら、ロックミュージシャンの不倫なんて、そんなに目くじら立てることなのかよって思うし。まあ、そんな僕の考えは古いのかも知れないけど、やっぱりロックが持っているエネルギーみたいなものは大事にしたいし、それを原動力に突き進んでいきたいっていう気持ちはありましたね。

──メチャクチャと言いつつ、考えさせられるテーマも流れていて。印象的だったのは、吉岡さん演じる明日葉ふうかが、いつも「やらない理由」を探して生きている人だということでした。

三木:さっき阿部さんとも話していたんだけど、俳優業に関して「やらない理由」だの、「やれない理由」だの探すまでもなく、気づいたら彼は始めていたと思うんですよね。映画監督だって一緒。「テーマが見つかったら書こうと思ってる」とか、「撮りたいものがあれば取るんだけど」なんて言うのって、結局やらない理由でしかないわけですよ。気づいたら始めてるし、こんな下らないことに全精力を注ぎ込むことなんて、やらない理由を探してたら出来ない(笑)。

──確かにそうですね。

三木:最近は「やらない理由」として、「批判が怖い」っていうのがあるみたいなんだけど……人から何かを言われるために作ってるところもあるじゃないですか。「素晴らしい!」って褒め称えられたかったら、もっと他のことをやった方がいいじゃんって思うし。作品作りって、とにかく「反応」「反響」が欲しいわけだから、「このクソ映画が!」って思われようが「ああ、なんか面白いな」って思われようが、価値としては同等だと思うんですよ。「観たけど、何にも残らなかった」って言われるのが一番キツイわけです。

ともあれ、何かをやろうと思った時に、すぐ先回りして結果を予測するのは「やらない理由」を見つけてしまうことになっちゃうんじゃないかなあとは思いますね。

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