中国が目をつけたノースカロライナの養豚業、悪臭は「お金の香り」

しかし、養豚がデュプリンの家族経営の農場を救った訳でもない。本来の農場の形が変わってしまったのだ。デュプリンで養豚業を営むウェンデル・マーフィーは1970年代、技術革新に乗り、1人で数千頭の豚を管理できる自動餌やりシステムを導入した。彼の会社マーフィー・ブラウンは、現在ミラーも参加する訴訟の被告となっているスミスフィールドの関連会社で、これまで農家に対し、多額の借金をして食用豚の飼育施設を整備することを推進してきた。いわゆる“契約農業”で、農家は土地と納屋と餌やりの施設だけを持ち、家畜は企業が保有する。ウーバーが出現する数十年前、米国の養豚業はギグ・エコノミーの先駆者だったのだ。

20年強の間にノースカロライナの食用豚の数は4倍の1000万頭にまで増え、経済も活気づいた。マーフィーは運良く州議会議員に選出され、養豚業の活性化につながる法案を支持してきた。彼が賛成したある法案では、1万頭までの業者を小規模家族経営の農場とし、区画規制の対象から外した。また、河川へ豚の排泄物を垂れ流すことへの罰則を実質無効化する改正案にも、彼は賛成した。さらに、養豚施設の建設資材を免税にする2つの法案にも賛成した。現在マーフィーは議員を引退したが、養豚の盛んな地域で議員を務め、養豚業界から10万ドル(約1140万円)以上の献金を受けているジミー・ディクソンが2017年、マーフィー・ブラウンに対するミラーの訴訟を実質無効にする法案を提出した。民主党員の知事が同法案を拒否したが、共和党が過半数を占める州議会が決定を覆し、もともとの法案をやや骨抜きにして通過させた。

ノースカロライナ州ポーク協議会によると、同州における養豚業は今や29億ドル(約3300億円)規模に成長し、4万6000の雇用を創出しているという。家族経営の養豚業のネットワークが、州東部の砂丘地帯の経済を支える屋台骨となっているのだ。しかし、そのような状況も完璧ではない。同地域の養豚場は、小規模の家族経営の農場を食い物にして規模を拡大してきた。1986年、ノースカロライナ州には1万5000件の養豚場があったが、現在は約2300件を残すのみとなっている。養豚業界に関わる人々が問題について証言する際、匿名を条件にする場合が多い。スミスフィールドは、些細な理由で農場との関係を断てる契約になっているためだ。しかし養豚場の農場主たちは長い間、「企業から十分な支払いを受けていない」と訴え続けてきた。農場には長時間の労働が必要とされるにもかかわらず企業との契約には諸手当が含まれず、フルタイムの収入を保証するものでもないため、前出のデュプリン郡政担当官アルドリッジを含む多くは副業を持っている。スミスフィールドの競合他社と契約している農場主のトム・バトラーは言う。「企業が、“自分のビジネスを持ちたい”という我々のアメリカン・ドリームを食い物にしたため、我々は大きな負債を抱えることになった。企業からの収入では各種支払をするのが精一杯で、借金を返すレベルではない」

Translated by Smokva Tokyo

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