スヌープ・ドッグのキャリアは16年に及ぶが、その追越車線をスローモーションで走っているような感覚と表現は、常に彼の人生から派生している。彼がポルノ映画を作ったり、映画『スタスキー&ハッチ』でハギー・ベアを演じたりとか、リアリティ・ショーの司会をしたりすることは、どれも自然なことなのだ。でもアルバムでは、ドラッグ、女の子といった“ギャングスタのライフスタイル”という自分の得意な場所から出ようとはしない。今回のアルバムもそういう部分では弱さを感じるが、スヌープがスタジオで実験した奇妙なサウンドを楽しむことができる。  歳をとることの副作用と言えば、ありのままの現実を受け入れることや、自分のキャリアの盛衰を見極めることだ。しかし36歳のスヌープは時として若々しくありたいと意識しているようだし、妻や家族への愛を語った後に誰かの彼女を寝取る、なんてラップも飛び出したりする。ノスタルジックに昔を語る曲のなかにも“今向かってるところだ”というフレーズがあるが、スタジオでの作業を終えた彼が家に電話して、「今から家に帰るよ」と言っている夫としての姿が浮かんでしまう。それこそが、彼が音楽に落とし込んだ究極のリアリティなのだろう。

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