ブリトニーという女の子が、ケンカやセックスの日々について「22歳まで続くとは思わなかったわ」なんて歌ってる。これはヤバいぞ、逃げるっきゃない! 実はこのブリトニー・ハワード、アラバマ州アセンズ市出身のバンドをガッチリ率いて、ガレージR&Bを蘇らせている本格派だ。デビュー・アルバムのバンド・メンバーは全員、地元マッスル・ショールズ・スタジオの黄金期を知らない若者ばかり。だが大御所に負けない曲作りをやってのけている。ホワイト・ストライプス的な“そんなの関係ねえ”姿勢で絞り出されたこのデビューも、「ハートブレイカー」みたいなちょっとしたナンバーですら、ズシズシ揺れる解体用の鉄球同然だ。まるでメンフィスのスタックス・レーベルから掘り起こした懐メロを、出来心で音楽配信サービスのスポティファイで検索して、そのまま自宅の地下室に駆け込んで、天性のガレージ・バンド流ドライヴ感というフィルターに流し込んだかのようでもある。

そのすべてをベッタリまとめているのが、ハワードの黒土のごとき重厚さだ。黒縁めがねに花柄のブラウスという彼女のいでたちは、南部の地味な図書館員を思わせる。そこがまた、ともすれば単なる懐古趣味になりそうなこの音楽を、パンク・ロックばりの改革へと転身させている所以だ。愛の狩人と化して叫ぶジメっとしたロックンロール「アイ・エイント・ザ・セイム」でも、哀愁のかすれたささやき「ボーイズ&ガールズ」でも、その歌いっぷりはロバート・プラントか、はたまたジャニス・ジョップリンか。だが大抵は、グシャッとストレートにぶつかるのみだ。「ユー・エイント・アローン」では“我が家への片道切符に私がなるから帰ってきて”と哀願している。ちなみに〈我が家〉は、へんぴな山奥に建つ一間の掘っ立て小屋かもしれない。飲料水持参で挑むべし。この盛り上がり、しばらく続きそうだ

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