デス・キャブ・フォー・キューティーのヴォーカル、ベン・ギバートは、間違って進んでしまった恋の道の結末を綴っていく。彼らのダーク・サイドがこのアルバムには広がっているのだ。この作品に登場する“お下がりのウェディング・ドレスを着る女の子”は、“電球が弾けるように/君は笑顔を引っ込めるんだ/泣いてる赤ちゃんを抱き上げるように”と描かれていて、“破綻した関係にあっても恋人と別れようとしない男”は、“独りで死ぬことの恐怖から逃げ出したい”とつぶやく。そう、さまざまな心の傷によってこのアルバムは定義されているのだ。 「アイ・ウィル・ポゼス・ユア・ハート」は、ミッドテンポのグルーヴが印象的なシングル曲。ベン・ギバードが織りなすインディ・ロック・ブルースは深いエモーションを描き出し、人々が心のなかにひっそりと抱える空虚さや、静かなる破滅を鮮明に語っていく。ジャック・ケルアックからの影響を明言する彼は優れたストーリーテラーだ。澄み切った彼の声は、癒しのようなものを感じさせる。ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』(66年)を連想させるオルガン・ロックは、ティンパニの音色がこんなにも美しいものなのかと気づかされる。

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