ビリー・ジョエル/ストレンジャー( 30周年記念盤)

70年代以降に登場したアメリカのシンガー・ソングライターのなかでは人気と実力のバランスという意味で右に出る者はいないといってもいい、ビリー・ジョエル。そのビリーのキャリアを打ち立てたといっても過言ではない傑作が77年の『ストレンジャー』だ。  ただ、ビリー特有の、あの現代的な情感をピアノでたっぷり聴かせる作風について考えると、実は73年の「ピアノマン」を連想してしまう。あるいは自分にとっての真実を追求し、それを歌い上げていくような、これぞビリー・ジョエル節と呼べるような楽曲について考えてみると、78年の次作『ニューヨーク52番街』の「オネスティ」や「マイ・ライフ」などがまず頭に浮かぶ。どうしてそうなるのかというと、それは逆に『ストレンジャー』が異常なまでに完成度の高い作品だからで、ビリー独特のクセを感じさせる楽曲については、どうしてもほかの作品のほうが多いからだ。  しかし、まずは『ストレンジャー』での成功があったからこそ、彼の個性が磨かれたのだ。そして、セールスで苦戦した76年の『ニューヨーク物語』でビリーがようやく打ち立てた方向性やスタイルを、極限まで磨き上げてみせたのがこの『ストレンジャー』だった。その最たるものが名曲「素顔のままで」の極度に洗練されたサウンドで、この曲の大ヒットこそ、ビリーの世界的な成功を瞬く間に実現させたものだった。その一方で、タイトル曲や「ムーヴィン・アウト」などのロック・ナンバーではエッジーな感性が宿っている。大作「イタリア・レストランで」などはニューヨークの都市生活者が持つ詩情を巧みにかつドラマティックに綴る。メロディとそのヴォーカル・パフォーマンスに天才的な聴きやすさを感じさせる「ウィーン」など、どの収録曲も粒が立って見劣りしない、完璧な出来になっている。間違いなくこの作品は今も昔もビリーの最高傑作なのだ。  今回リリースされる30周年記念盤では『ストレンジャー』を制作中だった77年のライヴ音源と、78年にイギリスでテレビ放送されたライヴ映像が特典でついてくる。ライヴ映像での自信に満ちた演奏が実に印象的だ。

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