ブレイク・シェルトンはおそらく今のアメリカで最も有名なカントリー・シンガーだが、それは彼の音楽によるものではない。『アメリカン・アイドル』をまねたNBCの人気番組『ザ・ヴォイス』のハンサムで率直なオヤジとして、彼は明晰な頭脳で他の出演者をイジり、親近感を表現するために目を吊り上げて、『アメリカン・アイドル』でいうところの、スティーヴン・タイラーの男臭い南部版を担当しているのだ。

ゴシップ雑誌の読者ならご存知のように、彼はここ10年のカントリーのメインストリームにおける最も才能溢れる女性、ミランダ・ランバートと結婚していて、2人は『USウィークリー』や『ピープル』の表紙を飾っている。ランバートがピストル好きとして知られていなければ、彼らの庭にはパパラッチのテントの集落ができていただろう。

このシェルトンの6枚目のアルバムは、彼のメインストリーム音楽への切符になりそうだったが、まだ目に見える変化はない。その代わり、これはブルー・ジーンズをはいた労働者風で、素朴で粗野な田舎の少年っぽい愛らしさといくつかの完璧なシングルを収めた、いかにもブレイク・シェルトンらしいレコードだ。シェルトンはかつてアーティストは極端であるべきだと語ったが、『Red River Blue』を聴いても、誰も腹を立てそうにない。

2001年にデビューを飾ったシェルトンは現代のナッシュヴィルのプロの模範的存在で、留守電のメッセージ越しに語られるラヴ・バラードの「オースティン」で、カントリー・チャートのトップに立った。シェルトンはジョージ・ジョーンズのように歌うことも、ブラッド・ペイズリーのようなギターのリックを弾くこともできなかったが、彼は役を演じて、歌を届けることができたのだ。04年の「サム・ビーチ」はここ10年における最高のジミー・バフェットの物まねソングで、カナダのマイケル・ブーブレのヒットに鼻声を加えて改良されたシェルトン版の「ホーム」は、再びカントリー・チャートのトップに立ったのだ。

『Red River Blue』も同じぐらい多彩なマーケット向けの実践知識を見せており、彼は味気ない素材に気の利いたフレーズで味付けしようとしているが、決まり文句好きの連中が言うように、“ドレスを着てもブタはブタ”だ。

ツイッターで冗談ばかり言っていないで、彼は自分の妻から少し学ぶべきなのだ。ポップ・ミュージシャンが注目されるための一番の方法は、勇気を持って作曲し、編曲して演奏することなのだと。それさえあれば、プライム・タイムのオーディション番組で審査員をすることなんて、いつだってできるはずだ。

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