最愛の母を亡くし、婚約者だったデザイナーのアレクシス・ファイファーとも別れた後、このアルバムを作ったカニエ。母へ宛てて書かれた曲も収録されており、文字どおり本作はハートブレイクなアルバムだ。ヒップホップ・スターダムでは飽き足らなかったカニエは、以前「世界一のアーティストになりたい」と語ったことがある。それだけ自我の強い彼だからこそ、ジャンルの垣根を越えた幅広い活躍ができるのだろう。そのことを示すかのように、今回のアルバムでも新たな試みに取り組んでいる。ローランドの名機とも言えるクラシック・ドラム・マシン、TR-808を使ってソングライティングをした結果、シンセ・ポップ風のスペーシーな曲が増えたのだ。そしてラップが大幅に減った。カニエは正統派のシンガーではないが、オート・チューンでデジタライズされた自分の声をサウンドのひとつの要素として捉え、作品の世界観を構築している。しかし、オート・チューンはこの作品の功罪でもある。最先端の音楽ソフトウェアを駆使しなくても、音楽シーンにおいてカニエが無敵であることに変わりはないのだから。

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