あくまでもひたむきで、そして未来志向で一躍ムーブメントの中心に立ったスクリレックス。彼をダブステップ界のヒーローに押し上げたヒット曲の傾向は、2010年の「スケアリー・モンスターズ・アンド・ナイス・スプライツ」から11年の「First of the Year (Equinox)」など、“歌”というよりは、トランスフォーマーがジャイアント・ロボットを食らっているかのような“音”だ。彼が使っているのは、楽器ではなくロボット音のようなサウンドである。サンプリングのソースは、レコードではなく人気YouTube動画の断片。そして一般的なヴァース〜コーラスの形式は、派手でトリッキーなドロップへと置き換えられている。緊張感をギリギリまで高め、突然、低音のベースへとつながるのが定番だ。

 まだ受け入れられない人たちへ。スクリレックスはその不満をきき入れている。それは、6年間のソロ活動で初リリースしたフルアルバムからも明らかだ。調子も上々、ハッピーで精神的にも安定している。一部の熱狂的ファンだけでなく、あなたたちのような人にも踊ってほしい。ヨーロッパEDM界の大物、DJ SNAKEやマーティン・ギャリックスらがトップ40を席巻しているなか、最もアグレッシヴなダンス・ミュージックの道を切り開いた男が対抗するのも一理ある。本作の収録曲は、「ファック・ザット」のように顔をしかめたくなるタイトルばかりだが、それは目くらましだ。ドロップをフィーチャーする数曲は、想像しがたいだろうが、とにかくソフトで心地良くすら感じられる。彼が得意としてきた粉砕音の連打に比べ、どこかスタイリッシュでフレンドリーな感じもある。例えるなら、恐竜のロボットが腹を空かせた時の雄叫びというより、楽しく遊べるレーザータグとも言える。

 本作は、26歳の彼がエレクトロニック・ムーブメントについて猛勉強した賜物だ。スクリーモ・バンドで10代の怒りにのめり込んでいた頃のことは吹き飛んでしまったことだろう。「ラガ・ボム」は、ジャングルの熱狂的なブレイクビーツがデジタル・ダンスホールと衝突していた90年代初頭のロンドン北部で、一歩先行く何かを探しているような曲。ゲスト・ヴォーカルは、過小評価されているジャングル界のパイオニア、ラガ・ツインズだ。「コースト・イズ・クリア」は、90年代後半に商業的成功を収めた2ステップを思わせる。この曲は、昨年のヒップホップ界でブレイクしたチャンス・ザ・ラッパーとのコラボ。アシッドやリキュールでキメたクレイグ・デイヴィッドが甘くささやいているかのようだ。「ダーティー・ヴァイブ」は、ディプロやK-POP界のスーパースター、G-DRAGONやCLも参加。表向きは今の流行りが満載なように見えるが、実際は、腰振りダンスも追いつかない毎分160BPMを刻む。まるで荒削りに切り取った一昔前のハードコア・テクノだ。

 この“Skrillex 2.0”は、かつての彼の魅力を知る者からすると、アドレナリンが沸き起こるほどでもなければ、野蛮なグルーヴの楽しみがあるわけでもない。だが、ブラック・フラッグだってジャズ志向の時期があったり、パブリック・エネミーもファンキーなアルバムを作ったりしたじゃないか。どちらもひどく評価は低かったけど。そもそも彼を成功に導いた要素は、曲の随所にちりばめられている。息が詰まりそうなローエンド、のこぎりの歯のようなエッジ、強烈なアグレッション、揺さぶるような音の破片の衝突、ヴォーカルを歪ませたエイリアンのメッセージのような音、これらは健在だ。これも、スクリレックス。前向きなセルフ・リミックスと言ってもいい。彼の音楽を受け入れられないのは歳をとった証拠だ。彼は回り道をしながら、最先端の試みをしているのだ。

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