What a Terrible World, What a Beautiful World

“おぉ、フィロミナ”と歌うのは、4年の活動休止を経て、自身のバンドを復活させたコリン・メロイ。ジルやジュディといった名前では、多音節でセクシーな響きのある“フィロミナ”ほど、彼の血を騒がせないらしい。“リンネルをまとった膝を開いてくれ、俺が下に行けるように”と彼は懇願する。艶かしい“ウー、ワー”のかけ声と、鐘の音のようなギターが繰り返される「Philomena」は、フォクシー・ブラウンの「キャンディ」以来、最もキャッチーなクンニリングス賛歌だ。この曲からもわかるとおり、バンドはすっきりリフレッシュ。70年代ポップふうの豪華さとキャッチーなサビで、自分たちの持ち味である“フォーク・ロック”をより豊かなものにした。

 これは、彼らにとって賢明な行動である。「Cavalry Captain」では、シカゴの『シカゴIX〜偉大なる星条旗』ふうブラスと、カーペンターズの『ナウ・アンド・ゼン』ふうバック・ヴォーカルが披露される。「Lake Song」はニック・ドレイクの『ブライター・レイター』を思い起こさせる。もしかしたら、メロイが作家として作品を出版したことで(彼は人気を博した児童書の3部作を書いている)、ソングライティングの感覚もよりシャープになり、知識をひけらかさないようになったのかもしれない。厚かましい道楽息子の歌「The Singer Addresses His Audience」(“俺たち中心の生活を築いたあんたら”)でさえ、曲中で展開されるアートや名声、ファンの世界や自己決定に関しての論には説得力がある。ほかの収録曲の場合、主導権を握っているのは頭よりも心のようだ。「Mistral」では“レンタカーをもう壊して/俺は途方に暮れている”とメロイは歌っている。

RECOMMENDEDおすすめの記事


MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE