これまで4枚のアルバムを発表してきたビーチ・ハウス。彼らはその作品で、聴く者の心に“無上の喜び”と“喪失感”を同時に喚起させるという、類いまれな技を駆使してきた。ギタリストのアレックス・スカリーのメロディは、波のように揺れ動くグルーヴに身を任せながらゆっくりと花開いていき、シンガーのヴィクトリア・ルグランのヴォーカルには、フリートウッド・マックのみずみずしいフォークロック、コクトー・ツインズのシュールな夢、ニコの不穏なドラマがこだまする。ボルチモア出身デュオにとって5作目となる本作は、その特徴的なサウンドを継続した一枚。彼らのこうしたやり方は、一見しばりがありそうに思えて、どんな世界をも飲み込んでしまう。

 まずオルガンのコード演奏、それに加わるシンバルの音色で幕開けする本作。そしてルグランが聴き手をアルバムの世界に招き入れていく。かすかなビートに乗せて“連れて行ってあげたい場所があるの”と歌うルグラン。曲はしだいに盛り上がるが、オーガズムに達することはない。だが、そんな必要があるだろうか? これくらい前戯が上手なら、それで十分だ。全体を通してルグランの歌詞が呼び起こすのは、鮮明に刻まれた“体験”だ。

「Sparks」では、残酷にも消え失せていく、素晴らしき幻影について描かれる。スカリーのギターが震えるなか、彼女は歌う。“私の口からあなたの口へ”。意外なのは「Days of Candy」だ。“それは思ったよりも早く来るとわかっている”と歌うルグラン。“それ”というのがアルバムの終わりを意味しているなら、彼女が言うことは完全に正しい。

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