サニー・ボーイ・スリムの物語

 ゲイリー・クラーク・ジュニアが多才であるのは喜ぶべきことであり、かつ不幸なことでもある。2012年の『ブラック・アンド・ブルー』は、ブルースやジミ・ヘンドリックスを思わせる生々しいソロ、艶のあるモダンなR&Bの間を行き来した画期的な作品だった。しかしまだひとつひとつが点の状態で、それぞれをどうつなげばいいか、わかってはいなかった。

 以来3年ぶりとなるスタジオ最新作では、彼のギターに焦点を当てることで、それぞれをつなぐ音楽を生み出すことに成功。本作でクラークは、アシッドロック(「グラインダー」)やブーツィー・コリンズふうファンク(「スター」)などで、彼独自の音楽を作り出している。

 ほかにも、マーヴィン・ゲイやカニエ・ウェストを彷彿させるラップ調ソウル「ホールド・オン」や、オースティン出身シンガー、タメカ・ジョーンズとのセクシーなデュエット「ウィングス」、ひとりの男の祈りに宿るドラマを描き出すタージ・マハル的なミニマルフォーク「チャーチ」などを収録。彼の演奏は完璧だ。しかし、ソングライティングには時折つまずくことがあるようだ。伝統的なマーダー・バラッドであり、セクシーなファルセットが入っているにしても、「コールド・ブラッデッド」で描かれる“拳銃の照準の先にいる女性”のイメージは、家庭内暴力に毒された社会においては少々不品行だ。

 “この音楽は俺の癒しだ”と、爆発的なオープニング曲「ザ・ヒーリング」でクラークは熱を持って宣言する。反復される部分で歌詞は“俺の”から“俺たちの”に替わって歌われる。大半において、彼は正しい。

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