ジョニー・デップ、アリス・クーパー率いる世界最強のカヴァーバンド「ハリウッド・ヴァンパイアーズ」とは

「音楽は感情への近道」だと語るジョニー・デップ。ジョー・ペリー、ダフ・マッケイガンとともに。 photo:Ross Halfin

ヴォーカルのアリス・クーパー曰く「メンバー全員が一度は死にそうな経験をしているバンド」、ハリウッド・ヴァンパイアーズのリハーサルは、ちょうど休憩に入ったところだった。

彼らが9月にリリースしたデビュー・アルバム『ハリウッド・ヴァンパイアーズ』には、「マイ・ジェネレーション」「マニック・デプレッション」「胸いっぱいの愛を」、そして「スクールズ・アウト/アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール(メドレー)」など、クラシックロックチューンのカバーが満載。そしてバンドの面々は、初ライブのリハーサルのために、カリフォルニア州バーバンクの倉庫に集まっていた。

黒いTシャツにブラックジーンズというゴシックカジュアルな服装のクーパーが、長年のマネージャーであるシェップ・ゴードンをハグで迎えた。赤銅色の胸にプーカシェルのネックレスを下げたエアロスミスのギタリスト、ジョー・ペリーは、何やら「将来はシナゴーグの管理人をやる」などとボソボソつぶやいている。とりあえず言えることは、ここには髪を染めていない人間は誰もいないということだ。そして、ガンズ・アンド・ローゼズの旧リズム隊であるドラムのマット・ソーラムとベースのダフ・マッケイガンが笑顔で交わす会話にじっと耳を傾けているのは、バンダナにバギージーンズと黒いブーツという出で立ちの男。この男こそ、バンドの腕利きセカンド・ギタリストであり、またの名をジョニー・デップという。

リハーサルは順調だったが、ここにきてプロデューサーのボブ・エズリンが首を振りながらメンバーに歩み寄った。ライブは1時間の予定だが、現在のセットリストでは44分にしかならないのだ。そこで、クーパーが「ブラウン・シュガー」を演目に加えようと提案した。すかさずデップがキース・リチャーズの完璧な物真似を始め、やがて演奏はデップとペリーのツインギターで最高潮に達する。

エズリンが拍手を送り、休憩しようと言った。ソーラムが、かつてはライブのステージ上で汗をかくことで、体内から酒を発散していたという話を始めた。「ガンズ・アンド・ローゼズ時代は、自分のアルコール依存度を、スラッシュやダフやほかのメンバーを基準に判断していたからね。何しろみんな1日中飲んでいた。それに引き換え、自分はせいぜいハッピーアワーから飲み始めて、そのままライブに突入する感じだったから。自分はアル中なんかじゃないと思ってたよ」

デップとクーパーは、12年のデップ主演映画『ダーク・シャドウ』の撮影現場で出会った。そもそもハリウッド・ヴァンパイアーズは、デップが所有する設備の整ったスタジオで(「ジョニーのギターコレクションは自分が知る中でも最高だ」とペリーは言う)、カバーアルバムでもレコーディングしながら好き勝手に楽しもうという趣旨で結成されたバンドだ。バンド名は、70年代に飲み仲間だったロックスターたちのグループ名に由来する。グループにはクーパーやキース・ムーン、ハリー・ニルソンがいたほか、ジョン・レノンとリンゴ・スターも時々ゲストとして参加した。時は過ぎて、新生ハリウッド・ヴァンパイアーズはアルバムを発表するが、それは図らずもムーンやジョン・ボーナム、ジム・モリスンら、酒やドラッグで身を滅ぼしたロックスターへのトリビュートとなった(クーパー自身は80年代に酒をやめている。やめるか、あの世の友人たちの仲間入りをするかのどちらかだと医者から宣告されたからだ)。

Translation by Mari Kiyomiya

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