ジョニー・デップが演じたベスト&ワーストキャラクター15人

公開間近の『ブラック・スキャンダル』に主演したジョニー・デップのキャリア絶頂期と、どん底を振り返る。

その昔、ジョニー・デップはアート映画の代名詞だった。ハンサムなルックスに抗い、創造力を発揮できる風変わりな性格俳優の道を選んで、思いがけずスーパースターになったみんなの憧れだった。

しかし、あの『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大ヒット。以降、デップはセルフパロディでしかない、ジェリー・ブラッカイマーのプロデュース作品に出演し続けた。確かに懐は豊かになっただろう。(今では、まるで私たちがコーヒーを買うかのごとく、島を買うことができる。)
しかし、彼はもうかつてのような憧れの存在ではない。(『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』もその原因のひとつ)。では、真の映画スターのひとりである彼を、自己判断で切り捨ててしまっていいのだろうか。

今週末公開される『ブラック・スキャンダル』で、彼は私たちの低い期待値にショットガンをぶっ放すつもりだ。この映画は、ルネッサンスならぬデップネッサンスの引き金になるかもしれない。(もしマシュー・マコノヒーが復活できたなら、私たちのジョニーだってそのチャンスがあるべきだ)。バーコードヘアで二枚目を隠し、表情豊かな瞳に曇ったコンタクトレンズをつけて、デップは信じがたいほど凶暴な悪名高きボストンのギャング、ホワイティ・バルジャーを演じている。デップについての最終的な審判はまだ下っていない。このキャング役をきっかけに、カムバックするという人もいる。デップのキャリア後半を占めるスタンドプレー映画の、より暴力的なオスカー好みのバージョンに過ぎないと反論する人もいる。それでも、この作品についてあれこれ意見が挙っているということが、彼のレガシーの豊かさを物語っている(若干、傷ありかもしれないが。)
このまったくもって型破りなキャリアのなかから、秀作、駄作、醜悪作を一緒に振り返ってみよう。

ベスト:『シザーハンズ』(1990)
デップはキャリア初期に、自分のルックスが武器ではなく障害になると気づいていた。そしてティム・バートンは、そんな彼を正しい方向に導くのに完璧な監督だった。デップが演じたのは人造人間の役で、ポップカルチャー版「フランケンシュタインの怪物」とも言える。世間から孤立したこのキャラクターで、デップはアイドルファンからアートシアター系の気取り屋まで、すべての人に愛される演技を見せた。

何の個性もない平凡な郊外の町で、唯一の異質な存在だ。バートンが描いた醜い孤独なヒーローは、悲劇の産物としてこの世に誕生する。しかし、デップ演じるエドワードにまったくその自覚はない。瞬きもしない目は、何をするにも初体験の喜びに満ちている。町の街路樹を(プードルや女性たちのヘアも)見事に剪定するが、それ以外はおっちょこちょい。優しさにあふれ、決して暴力は振るわない。しかし、顔に広がる血管のような傷跡が、やがて涙のように見え始め、彼が自分を傷つけるたびにその悲しみがこちらにも伝わってくる。

ワースト:『妹の恋人』(1993)

この奇妙な90年代の映画に出ているデップは、実のところそこまで酷くない。彼が演じたサムはスポケーン(ワシントン州)に住む、サイレント映画時代のスターに心酔している風変わりな青年だ。ところが、デップの演技はやがて彼が犯すミスをあまりにも正確に予兆しているので、ここで挙げておく必要がある。まず先に言っておくと、デップはこの役柄で、フィジカルコメディの才能の萌芽を見せた。チャーリー・チャップリンのロールパンのダンスを、いとも簡単な様子で完璧に再現している。一方で、サムは奇癖の数々を一緒くたに寄せ集めたような、現実味のないキャラクターだ。理由もなく木の後ろに隠れるような男で、これがすべてを物語っている。たぶん、デップの将来をうまく言いあてるには、劇中で彼に向けられたこのセリフをより他に方法がない。「まったくどうしていいか分からないわね」

ベスト:『ギルバート・グレイプ』(1993)
デップは、平凡な普通の役を演じて成功したことがあまりない。(たぶん最近だと『ツーリスト』の役柄がいちばんそれに近いが、まぁこの作品についてはあまり触れない方がいいだろう)。1993年に『ギルバート・グレイプ』でデップが演じたタイトルロールは、すでに反抗的だった。最初の見せ場となるシーンで、ギルバートは彼が働く田舎町の食料品店で、値札をスープ缶に突っ込む。

アバクロンビー&フィッチのカタログから最も繊細なモデルを抜き出したようなギルバートは、中西部で苦悩を抱えて暮らす家族の要となる存在だ。彼のストレートな語り口が、作品に理性を与えている。変わっているのは彼ではなく、家族のほうだ。彼には、家から一歩も出ない肥満体の母親がいて、守るべき知的障害者の弟(レオナルド・ディカプリオ)がいる。デップは素晴らしく共感を誘うし、彼のルックスの美しさと役柄の置かれた苦しい状況のミスマッチこそが、映画に寓話的な魅力をもたらしている。

Translation by Sayaka Honma

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