ショーン・ペンが語る:麻薬王エル・チャポとの会談(前編)


約2時間の飛行の後、私たちは木々の茂る山頂の高さから海面の高さまで降下する。パイロットは暗号化された携帯電話を使い地上と会話していた。

私は軍部が捜索地域における作戦を強化しているのを感じる。私たちが着陸する予定だった地域は突然、安全ではないと見なされた。かなり長い間、地上から空中に向かって通信が行われ、不安になるほど低い高度で何度か旋回した後、私たちは代わりの着陸地を見つけ出す。地面は土がむき出しで、2台のSUVが並木の影で待っている。私たちは着陸する。飛行中、みんな「オナー」という銘柄のテキーラのボトルからそれぞれ数口飲むほど、機体は揺れた。このテキーラはケイトが宣伝している新しいブランドのものだ。私は飛行機から降り、ほんの少し酔いを振り払うと手招きしている、私たちを待っていた運転手たちの方へと歩いて行く。私は片方のSUVの開けられたトランクに自分の荷物を放り込むと並木の方に足どり荒く歩いて行き用を足した。股間に手をやり、その部分が理不尽な麻薬の化身のナイフに対して傷つきやすいことを思う。そしてパンツにしまう前に、愛情を込めた眼差しでその部分を最後に見ておく。

エスピノーザは最近、背中の手術をしていた。彼は背伸びをし、術後のコルセットをみんなの前で付け直した。私たちを出迎えた人の中に、そのコルセットに無線やチップ、探知機などを隠すためのものだと誤解する者がいるかもしれないことに私は気がつく。全員の視線が彼に集まる中、エスピノーザは手際よくベルクロを腹の周りに巻く。ゆっくりと顔を上げると、自分に向けられた疑わしい視線に向かって彼のトレードマークである微笑みを浮かべる。そしてこう言う。「Cirugia de espalda(背中の手術だ)」。危険は回避された。

私たちは鬱蒼と茂った山岳地帯のジャングルを2台のトラックで進み、7時間に渡って次々と川を渡って行った。エスピノーザとエル・アル、ドライバーが前の席に座り、私とケイトはアロンゾとアルフレードと共に後部座席にいる。ジャングルが開け農地が広がったかと思ったら、また再び森林地帯に入る。上り道に入り、道路標識は街に近づいていることを示している。そして私たちはオズの魔法の国の入り口にいるように見える。最も高い山頂が目に見える範囲に入り、私たちは軍の検問所に到着する。制服姿の2人の政府の兵士が武器を構え、私たちの車に近づいてきた。アルフレードは車の窓を下ろす。兵士は恥じ入るような様子で下がり、通過するよう手で合図する。すごい。これがグスマンの顔の持つ力だ。そして組織の腐敗なのだ。これは私たちがその本人に接近していることを意味するものだったのだろうか? 

接近しているという兆候が出てくるまで、それからまだ数時間ジャングルの中を走らなくてはならなかった。その後どこからともなく土の地面の上に見知らぬ男が現れ、私たちの車を記録すると手持ちタイプの無線機を交換する。私たちは進む。ジャングルの中から小さな村々が現れ、保護されている小作人たちは見知った運転手が手を振ると目つきを和らげる。携帯電話はここでは使えない。だから私は、地理的に高い地点にある無線のリピーターが彼らの内部での通信手段になっているのだろうと想像する。

Translation by Yoko Nagasaka

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