ドキュメンタリー『ボブ・ディラン:ドント・ルック・バック』の驚くべき復元作業の内幕

「たしかに『イート・ザ・ドキュメント』が含まれていたほうが皆さんに喜んでいただけたのかもしれません」とヘンドリクスンは語っている。「だからこそ我々は『やせっぽちのバラッド』のシーンを収録し、『ドント・ルック・バック』が作り出した絆は65年のツアーが終わった後も続いたとのだと言うことを強調しているのです。彼らはあきらかに、お互いを認め合っています。ディランはD.A.の頭の良さを分かっていましたし、その逆もまたしかりでした。ただ、その作品はあくまでその作品として、きちんと評価されるべきだし、最終的には発売されることになると思います」。ペネベイカーもこの意見に同意し、ペネベイカー版の米ABC系列発注のドキュメンタリー『イート・ザ・ドキュメント』(ディランもその後、ディラン版を制作している)を今回の『ドント・ルック・バック』に収録することは可能だったかもしれないが、やはりこれら2作品は分けて考えるべきだと思うと述べている。

「2作目はある意味で、彼の映画なのです」と監督は語っている。「もちろん私も参加しています。ただ、この作品ではディランが『あなたに撮影をお願いしたい。監督は自分でするから』と言われて作ったような印象があるのです。結局、作品はできあがったのですが、ABCでは放送されませんでした。マーティンが使ってくれたことはすごくうれしかったのです。しかし私としては、あえて事を荒立てるつもりはない。作品はやがて発表されることになるでしょう。ボブがどうにかするつもりなんじゃないかと思っています。ボブはいつも『『ドント・ルック・バック』はあなたの作品だよ』と言ってくれていました。良かれ悪しかれ、私もそう感じています。

実際、クライテリオンの行き届いた仕事ぶりのおかげで、この『ドント・ルック・バック』は、出演者の作品としてだけでなく、カメラの後ろにいるアーティストの作品としても位置づけることができるようになっており、今回のDVDリリースは、音楽ドキュメンタリー作品のあり方を完全に変えてしまったペネベイカーに献げられているようにも感じられる。「この作品を見直すと、ほとんどの人はディランについて語るでしょう」とヘンドリクスンは語る。「しかし、この作品はペネベイカーが真価を発揮し始めた瞬間でもあったのです。彼は昔の仕事仲間から離れ、ライフ誌向けにニュース番組風のフィルムを作るのをやめ、デューク・エリントンの作品(『デイブレイク・エキスプレス(Daybreak Express)』)や、ここでも収録したデイヴ・ランバートのドキュメンタリーなどのアヴァンギャルドな作品の実験を始めたのです」

ヘンドリクスンは続ける。「だから、ペネベイカーが『ドント・ルック・バック』に取りかかった頃、彼は作品をツアーとはまるで関係ないところから始めています。彼自身がいきなり画面の真ん中に現れたかと思うと、次のシーンではいなくなっている。彼は即興で制作しているのです。ディランにもそのようなところがあります。だからこそうまくいったのでしょう。この2人だからこそうまくいった、革命的な作品なのです」

この作品が今でも説得力を保っている理由を聞かれて、ペネベイカーは次のように語っている。「僕らには常にディランが必要なんです。彼の『ああ、もうダメだ。でもこうするとうまくいくんだよ』という言い方、これは色あせるものではありません。多くのドキュメンタリー作品は、ある瞬間を捉えて、そこから前に進んでいくために存在しています。でも私は、未来のための作品を作りたいのです。この作品は1965年のことだけを描いているのではありません。だからこそ、いまだに説得力があるのです」

Translation by Kuniaki Takahashi

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