音楽史上最高のプログレ・ロック・アルバム50選


5. イエス『危機』(1972年)


「俺が思うに、イエスはプログレッシヴ・ロック・バンドのなかで最も重要な唯一の存在かもしれない」と、『危機』を「常にお気に入りのロック・アルバムのひとつ」とみなすラッシュのゲディ・リーは述べた。そしてペイヴメントのスティーヴン・マルクマスのように、もしリーの声がもっと高くなったらどうなるか想像したければ、ジョン・アンダーソンの雲を突き抜けるほど高いヴォーカルだけ聴いてみればいい。複数部構成の組曲である複雑な2曲に加え、目がくらむほど意味不明な曲「シベリアン・カートゥル」はイエスによる重要なプログレの意思表示である。掲示板でその意味を解析するのに膨大なピクセルが費やされた暗号のような歌詞とともに行くヘッドフォンの旅のようなこの曲(「カートゥル」は言葉ですらない?)は、『こわれもの』発売からたったの8ヶ月後にリリースされた。しかし、この目覚ましい躍進は長くは続かなかった。ジェネシスのドラマー、ビル・ブルーフォードはこの骨の折れるレコーディング作業の後にバンドを脱退し、キング・クリムゾンに加入して彼らのビートを気の狂ったジャズふうのレベルに進化させた。しかし彼にとっての究極の見せ場はこの『危機』にあるだろう。by W.H.


4. ピンク・フロイド『炎 あなたがここにいてほしい』(1975年)


疎外感というのは、超重要作品『狂気』の次回作であるこの感傷的でサイケデリックなアルバムほど堂々としたものに感じられることはめったにない。フロイドの結成メンバーであるシド・バレットが精神的なブラックホールのなかに消えていったことから発想を得て作られた『炎 あなたがここにいてほしい』は、バレットを含むバンドメンバーに捧げる9部構成の長い讃歌(「クレイジー・ダイアモンド」)で、音楽産業を激しく非難する2曲(「ようこそマシーンへ」、「葉巻はいかが」)と心に残る表題曲を間に挟み込んだ曲順構成である。アルバムの作詞作曲を行ったロジャー・ウォーターズにとって、バレットは「不足すると人が自制心を失わなければならないようなあらゆる過激な行為を象徴する存在だ。なぜならそういった行為がこんなひどく悲しい現代生活を耐え抜くための唯一の手段だからだ」。作業手順や中身に関する意見が対立したなか(バンドメンバーがスタジオでともに時間を過ごすことはめったになかった状況)でレコーディングが進められた『炎 あなたがここにいてほしい』のタイトルは、あるビジネスマンが別のビジネスマンを文字どおり燃やしている象徴的なジャケットを含む、一連の魅力的でシュールな写真をアルバムのためにデザインした、ジャケット・アーティストのストーム・ソーガソンが命名した。by R.G.


3. ラッシュ『ムービング・ピクチャーズ』(1981年)


「君には建設的な批判を無視する愚かさが必要だろう」と、ドラマーで作詞家のニール・パートは、ラッシュにとって今まででいちばん短い曲を収めたアルバムのリリースについてローリングストーン誌に語った。偶然かどうかは別にして、このカナダ出身のパワートリオによるコンセプト要素を弱めたプロジェクトは、彼らのなかでいちばんの人気作となり商業的にも成功した。「20分とは対照的な6分間で」ラッシュらしいサウンドを作り上げる才能のおかげで、ゲディ・リー曰く、威張ったような曲の「トム・ソーヤ」やモールス信号ふうのリズムのインスト曲「YYZ」のような上品でわかりやすいヘドバンしたくなるような曲が生み出された。ジョン・ドス・パソスの影響を受けた「ザ・カメラ・アイ」は11分の長さがあり、自由な発想の「レッド・バーチェッタ」や内省的な「ライムライト」、レゲエの特色を加えた「ヴァイタル・サインズ」のような短めの良曲は、パンクロック曲に相当するプログレ音楽である。by R.G.


2. キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)


音楽史上最も影響力のあるプログレッシヴ・ロック・アルバムのひとつであるこのキング・クリムゾンのデビュー作は、メロトロンをフル活用してジャズやクラシック・ロックの要素を混ぜ合わせることで、60年代後半の英国ロックで主流だったブルース調の傾向を避け、サイケデリアを今までにないほど暗い領域に引き込んだ。「キング・クリムゾンは一部の人から尊大であると非難されるだろう」と、ローリングストーン誌のジョン・モースランドは当時こう記していた。「だが、そういった批判は実に不当だ。彼らはエネルギーと独創性を持ったシュールな作品を創作するために、あらゆる音楽スタイルの要素を組み合わせたのだ」。ギタリストのロバート・フリップとマルチプレイヤーのイアン・マクドナルドが壮大なサウンドを大量に積み重ね、ベーシストのグレッグ・レイクが刺激的で不吉な歌詞を単調に唱えながら歌うのが特徴である、勢いの衰えないオープニング曲「21世紀のスキッツォイド・マン」や記憶に残りやすい「エピタフ」、厳かな雰囲気のあるクロージング曲「クリムゾン・キングの宮殿」などの曲は、来たるべきプログレ革命の基本方針とスタイルを確立させた。by D.E.


1. ピンク・フロイド『狂気』(1973年)


ピンク・フロイドによるこのそつのないコンセプト・アルバムは、間違いなくいちばん商業的に成功したプログレ・ロック作品で、全世界でのアルバム総売り上げ枚数においてマイケル・ジャクソンの『スリラー』の後を追うものとして引き合いに出されることも多い。数え切れないほどたくさんのプラネタリウム・ライトショーでBGMとして使用されたが、批判的な分析も同じくらい多かった。『オズの魔法使い』とのシンクロ(ライオンの三度目の吠え声の後に再生ボタンを押すと可能)から、フレーミング・リップスと彼らの友達が実施したアルバムを丸ごとカヴァーするプロジェクト、ピエロのクラスティー(『ザ・シンプソンズ』のキャラクター)の失敗作『ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーンパイ』でのパロディや、プリズムと虹のロゴデザインが数え切れないほど話題にされたりなど、このアルバムはリリース以来ポップカルチャーの試金石であり続けた。音質的には、クラシック・ロック(「マネー」)やソウル(「虚空のスキャット」)、グラム系のシンフォニック・ロック(「狂人は心に」)、鐘時計(「タイム」)、アナログ・シンセサイザー(ほぼ全曲の特徴)の音まで網羅している。歌詞については、ロジャー・ウォーターズが人間の本性である紙ほどに薄っぺらい皮をはぎ取る宇宙的でありつつ私的な内容だった。スタジオにあらゆる革新をもたらしたアラン・パーソンズのおかげで、『狂気』は根本的にわかりやすいところが最大の強みである。結局、彼らも普通の人間なのだ。By R.F.

Translation by Deluca Shizuka

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