ベックが語るボウイへの思い:「いつだって僕の目標だった」

ボウイはあらゆる世代のミュージシャンの目標となるような存在だった。演劇、文学、ポップカルチャー、アヴァンギャルドアート、あらゆるものの影響を自分の中で消化した上で、まったく新しいものとして世界に提示してみせた。『サージェント・ペパーズ』がそうであったようにね。音楽の歴史に残る曲を次々と生み出し、音楽におけるヴィジュアル面の重要性を浸透させただけでなく、コンサートのセットやミュージックビデオの制作においても一切の妥協を許さないその徹底したプロ意識に、僕は心から感銘を受けた。誰の目にも触れないところで、まるでマッド・サイエンティストのように、我を忘れて実験に没頭していたんだと思う。僕自身、何ヶ月もまともに寝れないような生活が続いて体はボロボロの状態なのに、インスピレーションがとめどなく湧き続けるっていう、まるで何かが覚醒したかのような状況を経験したことがあるんだ。彼と仕事をした人たちをたくさん知っているけど、ボウイがスタジオで思いつくがままに録ったテイクがどれほど素晴らしかったかという話は何度も聞かされたよ。シュトゥルム・ウント・ドラングのような、泥まみれになって成果を求めるのとは真逆のアプローチさ。そういう偉大なアーティストがこの世を去ったことに対して、今は世界中のミュージシャンが、まるで家族の一員を失ったかのような大きな喪失感を覚えていると思う。

僕が本格的にボウイの音楽にのめり込むようになったのは12歳の頃で、きっかけは『ハンキー・ドリー』だった。ちょうど自分でも音楽を作り始めた頃で、それから何年にも渡って繰り返し聴き続けるうちに、他のアルバムも全部好きになった。どれひとつとして期待を裏切ることはなかったんだ。パーソナルな部分を描いた曲だけじゃなく、『ファッション』のような、虚構を思わせる曲も大好きだった。もちろん『レッツ・ダンス』もね。50年代っぽさを残しつつ、同時にすごくモダンでエキゾチックなあの曲に、当時は誰もが夢中になってた。絵に描いたようなクールな佇まいでありながら、時に感情をむき出しにしてシャウトする、そういう予想のつかない存在に人は惹かれるものだからね。彼自身が『レッツ・ダンス』を気に入っていなかったことを、僕はいつも残念に思ってた。長年に渡って抽象的なアートを追求してきたアーティストが作るストレートなポップソング、それは単なるヒットメイカーがラジオ向けに作るシングル曲にはない魅力があると思うんだ。

Translation by Masaaki Yoshida

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