フレディ・マーキュリー、死と対峙したクイーン最後の傑作とは

「彼らの演奏を聴いてぶったまげたよ」と、イギリスの音楽誌『プログ』の2012年3月号でハウは語った。「みんなで口をそろえて「飛び回るように大げさでクレイジーなスパニッシュギターがほしいんだ。何か弾いてみてよ!」って言うから、即興でギターを弾き始めたけど、かなりきつかったよ。何時間か経って、「俺には無理なんじゃないか」と思った。ストラクチャーを覚えなきゃならなかったし、コードのルーツを解明しなきゃならなかった。遠くでマッドラン(泥んこ障害物レース)に出るなら、落ちなきゃいけない場所っていうか、自分がどこへ向かってるか知っておかなきゃならないんだよ。でも、夜になって、みんなで即興に即興を重ねるうちに、最高に楽しくなった。素晴らしい音のフルコースを味わって、スタジオへ戻って聴いてみた。すると彼らは、「最高だよ。これが欲しかったんだ」と言った」

91年にシングル『イニュエンドウ』のプロモーションビデオのメイキングでメイが語ったところによると、アルバムのエッジの効いたギターは、彼が聴いていたスティーヴ・ヴァイやジョー・サトリアーニのような80年代後半のギターの名手に影響を受けた部分があるという。しかし、アルバムにおけるメイのプレイは白々しいショーマンシップを超越しており、クイーンというひとつのバンドが、ディーコンとテイラーというふたりの卓越したリズム体に支えられ、彼とマーキュリーというふたりのフロントマンによって成り立っていることの真の証明となっている。

「僕たちはどんな時も、一緒にいると強くなれるんだ」と、ロジャー・テイラーは『イニュエンドウ』のプロモーションビデオの中で語っている。「みんなで素晴らしい時間を過ごせて本当にラッキーだったよ。(フレディは)本当にエネルギー塔みたいだった。一緒に仕事をすると、彼はいつも最高のものを引き出してくれて、力を与えてくれて、周囲の人間を元気にしてくれる」

『ヘッドロング』はもともと、ブライアン・メイのソロアルバムのためのセッションだったが、マーキュリーに歌わせてみたところ、クイーンの曲にふさわしいということになった。『ザ・ヒットマン』や『アイ・キャント・リヴ・ウィズ・ユー』などのB面曲は、74年のアルバム『シアー・ハート・アタック』以降バンドが取り入れてきたどのサウンドよりも、ヘビーなギターサウンドを重視していることをうかがわせた。バンドが見せた華麗なエレキサウンドへの回帰は、80年代にクイーンが経たニューウェイブ、R&B、インチキ臭いシンセポップの紆余曲折に耐えてきたファンの溜飲を下げたに違いない。

「以前から、僕たちはいろいろなジャンルの音楽に関心があったんだ」と、テイラーは91年に語った。「だから、いろいろなジャンルに手を出した。でも、路線を変えると、世間はあれこれ不満を言うようになった。それで、世間が本当に望んでいるのは、濃密に入り組んだギター、ドラム、ベースへの回帰だと考えた。今は、キーボードを入れてハーモニーを広げたらいいと思ってる。このアルバムはまさにそれを具現化したものだ」

Translation by Naoko Nozawa

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