『イン・マイ・ライフ』のピアノをはじめ、マーティンは演奏の面でもビートルズの作品に数多く貢献している。「自分で書いたにも関わらず、私はあのフレーズを正しいスピードで弾くことができなかった」2012年のインタビューで彼はそう話している。「一流のピアニストなら問題なく弾けたはずだが、私にはテンポが早すぎて正しく弾くことができなかった。1人で過ごしていたある夜、私はそのフレーズを1オクターヴ下げた上で半分のテンポで弾き、それを毎秒15インチでレコーディングしてみることにした。それを毎秒30インチで再生してみたところ、正しいテンポとピッチで鳴ったんだ」
1966年の『リヴォルヴァー』には、テープマシンを逆回転させるというマーティンのアイディアを反映した『トゥモロー・ネバー・ノウズ』が収録されている。「ジョンにそのアイディアを話した時、彼は衝撃を受けた様子だった」1976年のローリングストーン誌のインタビューで、マーティンはそう話している。「メンバーが自宅で録ったテープを持ち寄って、半分冗談のつもりで逆再生していた。『トゥモロー・ネバー・ノウズ』の音はその時のテープからできているんだ」
ビートルズの音楽性がよりサイケデリックになっていくにつれ、マーティンの豊富な経験とバックグラウンドはより重要性を増していった。「ドラッグがバンドの音楽性に影響を与えていたのは間違いない」同インタビューで彼はそう語っている。「しかし制作に悪影響が出たわけではなかった。私がプロデュースしていたからというのもあったかもしれない。当時の彼らの音楽はサルバドール・ダリの絵画を思わせたが、それがドラッグの影響だったとは思っていない。彼らは印象主義的な作風を追求していたんだ」