ジェフ・ベックが語る、ジョージ・マーティンとの思い出:「彼が僕にキャリアを与えてくれたんだ」



76年のアルバム『ワイアード』で再びタッグを組んだ2人だが、ジェフはフュージョンに深くのめり込んでいたキーボードのヤン・ハマーが加わったことで(同アルバムの『蒼き風(Blue Wind)』は、ヤン・ハマーのプロデュースである)、より複雑なセッションであったと思い返した。またジェフはマーティンにグラハム・セントラル・ステーションのアルバムを聴かせたという話もしてくれた。「そしたらジョージが"申し訳ないけど、僕が聞いたアルバムの中で史上最悪なサウンドだね"って言ったんだ。でも彼は"君の方向性が分かったと思う。"とも言ったな。俺はマハヴィシュヌ・オーケストラとヤン・ハマーに、はまりにはまってたんだ」

『ワイアード』を振り返るジェフは、次のエピソードにもふれた。「俺は(チャールズ・)ミンガスのカヴァー『グッドバイ・ポーク・パイ・ハット』のソロに満足してなかったんだ。それでジョージに電話して"アレンジに良いアイデアがある"って話したんだ。そしたら彼は"アルバムがリリースされて2週間だよ!"って言ってた。こんな感じで昔はいい加減だったんだ」

それ以降、2人のコラボレーションが実現することはなかったが、連絡は取り合っていたという。ジェフは夕食に招待したマーティンが、彼の自宅にプレゼントを持ってやって来た時のことを話してくれた。「クラッシックのアルバムを、ばかでかい鞄に入れて持ってきたんだ」と状況を説明するジェフ。「彼は"これは君へ。受け取って楽しんでほしい。それからメロディーを聴いてくれ。そしたら君にはこの先20年はキャリアがあるから。君のメロディーは本当に表現豊かなんだ。君のためになるから"って言ってくれたんだ」

ジェフが最後にマーティンに会ったのは、音響技術アワードの授賞式だった。この時のマーティンは、すっかり老い衰えた様子で補聴器をつけていたという。「大きな補聴器を2つ。片耳に1つずつね。結構驚いたよ。だって彼より俺の方がもっとデカい音に触れてきたわけだし。そうは言っても、長年シンバルのパートがあるオーケストラを担当してたら、悪い影響を受けるはずだよな」

そして40年経った今、短期間でこそあったが充実していたジョージ・マーティンとの日々を回想したジェフ・ベックは「スタジオに戻って一緒にもっと曲作りをしなかったのは残念。俺の最大の後悔だよ」と静かな口調でマーティンに敬意を払った。「刺激的な時間だったんだ。毎日スタジオに行くのが楽しみでね。残念ながらあの時以来、一緒にスタジオに入ることはなかったんだ」


Translation by Miori Aien

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