ボブ・ディランはいかにして『ナッシュヴィル・スカイライン』でカントリー風の声を身につけたのか

このアルバムで彼が初めて披露した驚くべきバリトンのささやきヴォイスは、タバコを止めただけでできるようになったのだと本人は主張している。「あのな、タバコを止めてみろ。カルーソーみたいに歌えるようになるから」。映画『真夜中のカーボーイ』のために書かれた色気のあるバラード曲『レイ・レディ・レイ』で、ドレイクのシロップのように甘いスティール・ギターと、バトレーのシンコペーションのリズムに乗せて、ディランのその新しい声が披露されている。後年バトレーは、この曲の自分のパートを"安物のボンゴのセット"と予備のカウベルでものにしたと回想している。「その頃、クリス・クリストファソンがコロンビア・スタジオの用務員として働いていてね、彼がドラムのところに置いてあった僕の灰皿を取り替えに来てくれたんだ」とバトレーは振り返る。「そこで僕は、"なあクリス、お願いがあるんだが、そこでコイツを持っていてもらえないか"と頼んだんだ」。

『ナッシュヴィル・スカイライン』の最初のセッションから数日後、ディランはスタジオに盟友ジョニー・キャッシュを連れて戻ってきた。『ユー・アー・マイ・サンシャイン』から、アパラチアン・フォークのスタンダード『グッド・オールド・マウンテン・デュー』、キャッシュの楽曲『アイ・ウォーク・ザ・ライン』『リング・オブ・ファイア』まで、彼らは1ダースを越える緩いカヴァー曲を一緒に録音した。アルバムに収録されたのはそのうち1曲だけ、ディランの楽曲『北国の少女』での仲の良いデュエットだった。この曲は1963年の『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』にも収録されていたもので、この作家がすっかり遠くまで来たことを示す記念碑のようにも聞こえる。この曲にはあわやもう1つの目的が課せられるところだったのだという。1969年のインタヴューでディランは、「アルバムタイトルの案の中には、どうもしっくりこないものがあってね」と笑いながら振り返っている。「だってさ、ギターを抱えた僕の写真がアルバムカヴァーになっていて、そこに『北国の少女』なんて印刷されていたらアホらしいだろ」

Translation by Kuniaki Takahashi

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