ボブ・ディランはいかにして『ナッシュヴィル・スカイライン』でカントリー風の声を身につけたのか

Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

ボブ・ディラン、恍惚のアルバムでジョニー・キャッシュと共演し、カルーソーのように甘くささやく。


『ナッシュヴィル・スカイライン』のリリースから2か月経った1969年6月、ボブ・ディランはローリングストーン誌の創立者ヤン・ウエナーに、もともとはこのアルバムには別のタイトルを考えていたのだと明かした。「思いついていたタイトルは『ジョン・ウェズリー・ハーディング、ヴォリューム2』だ」と彼は語った。「そうするはずだったんだ」。例によってディランは少なくとも部分的には冗談を交ぜていたはずだ。『ナッシュヴィル・スカイライン』は、1967年発売の前作『ジョン・ウェズリー・ハーディング』と同じ街で録音され、同じリズム・セクションが再招集された。しかし似ているのはそこまでだ。前作が不吉な謎かけのような作品だったところ、『ナッシュヴィル・スカイライン』は、笑顔で一杯のアルバム・ジャケットの写真から、曲目リストに並ぶ甘くてロマンティックなラヴ・ソングまで、まるで大きくて暖かい抱擁のような作品なのだ。「レコード会社はこの作品を『愛しかない世界』と名付けたがっていたよ」とディランは付け加えた。「でもそれじゃあ、僕には薄気味が悪くてね」

ディランはここ数年、カントリー音楽に手を出してきたが、今回のアルバムではついに、ハンク・ウィリアムス、ジェリー・リー・ルイス、エルヴィス・プレスリーから受けた影響を大きく打ち出している。「サウンドはナッシュヴィルそのもので、とても嬉しいよ」と語るのは、このアルバムでベースを担当したチャーリー・マッコイだ。マッコイと、ドラマーのケニー・バトレーに加えて、ギターにはチャーリー・ダニエルズ、ペダル・スティール・ギターの名手ピート・ドレイクなど、"ミュージック・シティ"ことナッシュヴィルのトップ・セッション・プレイヤーが参加し、鮮やかなフルバンドのサウンドを奏でている。ディランはリラックスした雰囲気のセッションをこう振り返っている。「曲は自然にできあがった。僕が演奏を始めると、みんながある種、バックで音を埋めていったんだ」

Translation by Kuniaki Takahashi

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