ゲーム理論で読み解くドナルド・トランプの戦略

ヒラリー・クリントンがトランプの戦略をよく研究すれば、弱点を突いて彼を打ち負かすことができるだろう。ただ、決して楽観視はできない。ジェブ・ブッシュは共和党の予備選でトランプからの中傷攻撃に対して無視を決め込んだが、この作戦はかえって自分を弱く見せ、トランプを優位に立たせてしまう。逆に、彼のしっぺ返し戦略に乗ってしまうと、それこそ彼の思う壺である。ゲーム理論のデス・スパイラルに陥るとお互いにカウンター攻撃を応酬し合い、共倒れになってしまう。そうなると、敗北を恐れないトランプの方が有利かもしれない。

トランプを負かすためのもうひとつの方法がある。予備選中に犯したトランプの最大の過ちは、作らなくてもよい敵を作ってしまったことである。FOXニュースのキャスターであるメーガン・ケリーとトランプとの論争は、女性有権者を遠のかせ、選挙戦で重要なディベートのひとつに敗北してしまった。ジョン・マケイン候補に対する戦争経歴批判は、何人かの有識者が予測した通りトランプ自身の候補者資格に影響はなかったものの、悪い印象を残した。また、アイオワ州でベン・カーソンが得票数を伸ばして急上昇した際、アイオワ州の有権者を馬鹿呼ばわりしたことは、それ自体が愚かな行為である。

クリントンはトランプのお株を奪い、第三者から彼に対する誹謗中傷の一斉攻撃を仕掛けることもできる。トランプが賢い人間であれば、それらの誹謗中傷は無視し、クリントンのみに集中するはずである。ところが前出のエリザベス・ウォーレン議員とのSNS上での応酬を見てもわかる通り、トランプはそれが自分自身の利益になろうがなるまいが、売られた喧嘩は買わずにいられない性格である。彼の引き起こす論争は、彼の政策やメッセージから有権者の目をそらし、大統領候補としての威厳も損なっている。

この理論に則ったトランプ潰しの最も効果的な方法は、彼を恐れない政治家、ジャーナリスト、セレブなどの有名人を使って彼を挑発することである。最も重要なポイントはクリントンの副大統領候補選びで、これからの約半年の間、トランプとの激しい乱打戦にも耐えられる人選が重要といえる。望ましいのは、偏見の強いトランプが嫌う女性やマイノリティを候補者として立て、彼を苛立たせ、暴走させることでトランプ支持者をうんざりさせるのが理想的な戦略である。トランプがクリントンの放った刺客たちへの反撃に気をとれられているのを横目に見ながら、クリントンは着々と大統領選への準備を進めることができる。クリントンの仕掛けにはまるほど、トランプのタフガイとしてのイメージが損なわれる。またトランプが極端な排他主義を前面に出しながら周囲のおべっか使いを自分の尊厳と勘違いし、実態のないものと格闘している間に、クリントンは悠々と選挙戦を勝ち抜くことができるだろう。

わずか4行のコンピュータ・プログラムと同等の低レベルなトランプとの争いは、クリントンにとって有利な点でもあり、戦いにくい相手でもある。


ドナルド・トランプは他人を誹謗中傷するのに手段を選ばない。彼の最も下劣な発言とSNSでの攻撃はこちら



Translation by Smokva Tokyo

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