幻の未発表アルバム15選

(Illustration by Ryan Casey)



未発表アルバムは、手が届かないところに存在するもう一つのロックの世界を垣間見せ、私たちの興味を掻き立てる。

私たちが未発表アルバムに魅了されるのは、その音楽だけが理由なのではなく、それを誰が作ったかが大いに関係している。またその音楽は、必ずしも私たちの期待に応える内容であるとも限らない。未発表作品のプロジェクトの背景には、史上最高のアーティストたちがそのクリエイティブなアイデアを巡り、レコード会社あるいはメンバーをも相手に争うというエピソードが存在する。また時には、そういったドラマは関係なく、単純にプロジェクトが中断し忘れ去られたという場合もある。しかし、ニール・ヤング、ザ・ビートルズ、ボブ・ディランとジョニー・キャッシュ、マーヴィン・ゲイといったミュージシャンたちのお蔵入りスタジオ・セッションの噂は、崇拝するアーティストがレコーディングした全ての曲を見つけ出そうと心に決めた、献身的なファンの心の中に生き続けている。ビーチ・ボーイズの『Smile(スマイル)』やザ・フーの『Lifehouse(ライフハウス)』といった、伝説的『幻のアルバム』の詳細が徹底的に記録されている一方で、驚くほど多数の特筆すべきプロジェクトは、未だ謎に包まれたままになっている。それらのアルバムは、歴史を変えたかもしれないものから、ただ単純にサウンドが見事なものまでさまざまだ。いずれにしても、それらが聴く価値のあるアルバムだということには変わりない。

ザ・ビートルズ『Get Back(ゲット・バック)』(1969年)

『ゲット・バック』は、ロックの原点に戻るというコンセプトの元、複雑な制作過程をたどらず、アルバムに付属するドキュメンタリー映画の撮影のために、格納庫のような映画スタジオでライヴレコーディングされた。コンセプトは面白いものであったが、その条件はアルバム作りに理想的なものでなく、ビデオカメラはセッションの邪魔をした。この拷問のようなセッションは、有名な旧アップル本社の屋上で行われたコンサートの直後に終了したが、85時間に及ぶセッションの音源をまとめる役目を、自ら引き受ける者は誰もいなかった。

ガラクタの山から使える曲のリストを選び抜くという、誰もがうらやまない役を引き受ける羽目となったのは、プロデューサーのグリン・ジョンズだった。「最初は、リハーサルの音源でアルバムを作りました」と彼は英BBCに話している。「曲の間に、雑談とかジョークとか普通の会話の一部を入れて。それから途中で演奏が止まったものとか、出だしを間違えたものとかも」。ビートルズはというと、このコッソリと監視されるようなアプローチを「かなり気に入っていた」という。一方で、ビートルズの新マネージャーのアラン・クレインは、洗練されていないアルバムをリリースすることを渋った。そしてアランは70年3月、ジョン・レノンに『ゲット・バック』のテープをプロデューサーのフィル・スペクターに渡すことを勧めた。

フィルの新しい制作アプローチに、メンバー全員が賛成したわけではなかった。「僕が全くコントロールできないところで進められたんだ」。ポール・マッカートニーは伝記作家のバリー・マイルズに、こうため息交じりに話したことがあった。「リミックスバージョンが送られてきたんだ。でも、誰も僕の感想を聞かなかった」。ポールはアレンジが加わった自身の曲を聴いた時、激怒したという。特に、必要以上に感傷的なストリングス、ハープ、大げさなクワイアが曲中に散りばめられた『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』に対して、怒りを露わにしたようだ。楽器を取り除いてほしいというポールの要求は退けられ、アルバムは『レット・イット・ビー』というタイトルで、同年5月にリリースされた。

Translation by Miori Aien

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