ビートルズ、『リボルバー』への道を開いた『ペイパーバック・ライター』の革新性とは

この曲にはまた、ちょっとしたおふざけの余裕もある。当時のイギリスのバンドは 訳知り風のバッキング・ヴォーカルを付けることに凝っていた。ビートルズは『ガール』で「tit tit tit(小娘、小娘、小娘)」と繰り返し歌っているし、当時クラシックのミュージシャンを雇えなかったザ・フーは『クイック・ワン』で、チェロの音が鳴るべきところで「チェロ」という言葉を繰り返していた。そして『ペイパーバック・ライター』では、3度目のAメロでマッカートニーの後ろの男たちが「フレール・ジャック」(訳注:フランスの民謡)と歌っている。

子どもが一緒に歌うようなメロディを、この世のものとは思えぬ演奏の背景にしのばせ、『三文文士』といったもう少しきちんとした小説から取ることもできたはずの出版の夢物語をあわせると、そこにはとても奇妙ですばらしい世界の衝突が起きるのである。

本当にたくさんのことが起きていながら、すべてが見事に調和している。『ペイパーバック・ライター』で、ビートルズは聴く者を宇宙の外に誘っているようである。あるいは少なくとも、平凡な日常からは連れ出そうとしている。ずっと上を目指す時が来たのだ。その誘いを、手紙の形にしてあなたに届けるセンスすら、彼らは持ち合わせていたのだ。

Translation by Kuniaki Takahashi

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