レディオヘッド『ア・ムーン・シェイプト・プール』:電子音楽とオーケストラの融合

レディオヘッド『ア・ムーン・シェイプト・プール』

通算9枚目となるレディオヘッドのアルバムがリリースされた。その直前、バンドはツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアの投稿を一時削除。また、クラシックのミュージシャンを起用し、コル・レーニョ奏法を用いたシングル『バーン・ザ・ウィッチ』をリリースしている。

ようこそ、職人バンド、レディオヘッドの新たな世界へ。エレクトリックとアコースティックが混じり合ったセミ・アンプラグドの本作は、古き良き俗世界からの解毒剤として、デジタルライフに起因する『一向に回復しないパニック発作』に効き目がある。5年ぶりとなるスタジオアルバムは、『バーン・ザ・ウィッチ』によって幕を開ける。リンチに赴く群衆(インターネット上で人を辱める人間か、はたまたノースカロライナ州のトイレ法論争でヒステリックになっている人達か)を想起させるこの曲では、やはりレディオヘッドが我々の不安を煽るのに長けていることがわかる。


電子音楽が特徴の『キッド A』や『アムニージアック』に対し、本作はオーケストラ的な編曲に基づいたものとなっている。おそらく、サウンドトラックの作曲も行っているジョニー・グリーンウッドによるものだ。だがエレクトロニクスも健在で、巧みに融合されている(例えば『Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief』でのストリングスの終結部が、電気的な雑音にかき消されていくところを確認してみてほしい)。トム・ヨークの声は相変わらず情動的で、かつてないほど心に訴えかけてくる。『Glass Eyes』では『やあ、僕だよ/電車を降りたところなんだ/恐ろしい場所だった』とヨークが歌い始める。まるで、人気のない駅からかかってきた、しかも途中で切れてしまう携帯電話の通話のようだ。このアルバムは、ゆっくりと注意深く聴くべき作品の見本とも言える。

ア・ムーン・シェイプト・プール

★★★★1/2

レディオヘッド
ホステス

発売中


Translation by Mariko Shimbori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE