CDレヴュー|ボブ・ディラン、スタンダードを歌う

ボブ・ディランは自分のアイデアを深堀りするのが大好きだ。それゆえ『フォールン・エンジェルズ』が、前作に引き続き、アメリカのスタンダード曲を渉猟した作品であるのは驚くべきことではない。収録されているのは、フランク・シナトラ(ディランはシナトラから歌唱法の多くを学んだ)によって有名になったナンバーなどだ。

やり方は似てはいるものの、昨年リリースした『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』に収めきれなかった曲を単に入れただけの作品ではない。ディランの表現は驚異的で、時に悲痛、時に陽気。演奏も気品に溢れている。管楽器はなくなり(特に痛手ではない)、コアとなるバンドには伝説的セッションギタリスト、ディーン・パークスを迎え入れている。古株のドニー・ヘロンも、スチール・ギターでウェスタン・スウィングとハワイアン・ミュージックのフレーバーを加えるかと思えば(『ヤング・アット・ハート』『ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビーム』)、ヴィオラではホット・クラブ風ジャズに通じる演奏をしている。収録曲は40年代から50年代のもので、韻を踏むのが大好きな作詞家ジョニー・マーサーにもスポットライトを当てている。ハイライトとなる『スカイラーク』『ザット・オールド・ブラック・マジック』は、マーサーの愛人ジュディ・ガーランドを歌ったと言われる曲だ。アルバムタイトルの『フォールン・エンジェルズ』とはこの2人のことなのだろうか?ディランからの恋人へのメッセージなのか?これはまた3部作なのだろうか?齢75にして、この男はまだまだ我々をワクワクさせてくれる。


フォールン・エンジェルズ

ボブ・ディラン

ソニー

発売中

★★★1/2

Translation by Mariko Shimbori

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