エイミー・ワインハウス:ディーヴァとその悪魔

中にはマーキュリー賞(受賞は逃した)や、アイヴァー・ノヴェロ賞最優秀ソングライター賞(こちらは受賞)も含まれる。だがちょうどその頃、彼女はベイビーと出会い、幼い頃に大好きだったという60年代の音楽に再び魅了されたという。



5日後、彼女はマイアミで私に言った。「ブレイクと恋に落ちた時、私たちの周りには60年代の音楽がよく流れていたの」。私とワインハウスはその日の朝に会う予定だったが、彼女とフィールダー・シヴィルには別の計画があった。翌日結婚するべく許可証を取りに行った彼らは、直前になって、もうマイアミにいるのだから結婚してしまおうと決めたのだった。こうしてマイアミの判事の前でふたりきり、約130ドルという控えめな費用で、エイミー・ワインハウスは彼女のベイビーと結婚した。「自分たちが思いつきで結婚したとは言いたない。そう言うと、気まぐれの結婚みたいに聞こえるから」と私に語るフィールダー・シヴィルの顔は、抑えきれない笑顔がこぼれ、瞳は幸せで輝いている。



ふたりは2005年、カムデンにあるワインハウス行きつけの酒場で出会った。「家の近所だったの」とワインハウス。「そこに入り浸ってはビリヤードをやったり、ジュークボックスの音楽を聴いたりしていた」。彼女の代わりに言うと、その『音楽』とは、ブルースやモータウン、ガール・グループの曲のことだ。「もっと重要なのは、前はたくさんマリファナを吸っていたってこと」。どうしてこれらの音楽が『バック・トゥ・ ブラック』を書いている時の彼女に大きな影響を与えたのか、ワインハウスは説明する。「中毒になりやすい性格だと、次から次へとその対象が移っていくものだと思う。 彼はマリファナを吸わないの。だから私はもっとお酒を飲むようになって、前ほどマリファナは吸わなくなった。今まで以上にそんな音楽が好きになったのは、このせいね。外に出かけてはお酒を飲んでいたから。マリファナを吸っている時の気分って、すごくヒップホップなの。私が初めてのアルバムを作った時は、ヒップホップとジャズばかり聴いていた。マリファナを吸っている時はとても自己防衛的な精神状態で"うるさいわね、私のこと知らないくせに"って感じ。でも、お酒を飲んでいる時はこう。"なんて可哀想な私。あぁ、あなたを愛してる。あなたの身代わりになってあげる。私の方を振り返りさえしなくても構わない。私はいつまでもあなたのことを愛してる"」  

ワインハウスは、『フランク』をヒップホップ・プロデューサーのサラーム・レミとレコーディングした。レミはナズやフージーズ、ジュラシック5をプロデュースしてきた人物で、ワインハウスは『バック・トゥ・ブラック』も当初は全曲、彼と一緒に制作する予定だったと明かしている(最終的に、彼はアルバムのうち4曲を手がけた)。しかし、音楽的に共鳴するものがあるのではと、EMIの幹部がロンソンを紹介した。「私は自分で曲を書くけれど、誰か人がそばにいる状態でないと書けないの」と彼女は語る。「マークがどんな曲を手がけてきたのか知らなかったし、いい歳して若ぶってカッコつけてるヤツのひとりだと思ってた。彼が実際に若いって知らなかったのよ! 彼に会ってほとんどすぐ、兄と妹みたいに意気投合したわ」。


泣き崩れると、黒のアイライナーが涙で滲んでいた(C)2015 Universal Music Operations Limited.

ロンソンは、ニューヨークのバーやクラブのヒップホップDJとして音楽業界のキャリアをスタートさせた。彼が手がけた『バック・トゥ・ブラック』の6曲はDJである彼自身が培ったカット&ペースト美学が、オールドスクールなソウルのライヴ演奏にも反映されている。このライヴは、ブルックリンを拠点にする8人編成の素晴らしいディープファンク・グループ、ザ・ ダップ・キングスによるもので、ロンソンはワインハウスのヴィジョンをアルバムで表現するために彼らの音楽を採用した。「エイミーが僕のスタジオに来て、ザ・シュレルズやシャングリラス、ジ・エンジェルスなんかの曲をかけたんだ」とロンソン。「僕は彼女の話に触発されて、その夜、『バック・トゥ・ブラック』のドラムとピアノのパートを作って、タンバリンにはものすごいリバーブをかけた。エイミーには無関心を装うところがあるんだよ。次の日、演奏してみせた時、"素晴らしいわ"と言ったけど、本心でそう思っていたのか僕にはわからなかった。その後、"私がアルバムに求めていたのはこういうサウンドよ"みたいな感じで、毎日スタジオに来てアコースティックギターで演奏してみせた。僕らはこれだと確信できるものが見つかるまで、違うアレンジをいろいろと試してみた。みんながモータウンの音楽に戻るのは、素晴らしいミュージシャンたちがひとつの空間に集まって演奏しているからで、僕らもそれを目指したんだ」

Translation by Sayaka Honma

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